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【Side:春川萌々】
久遠寺くんが、恋人はいないけれど好きな人はいるのだと言った時、えっ?って思ったの。
それはもしかしてえっちゃん?って。
なのに。
「今、目の前にいる人」
とか言われて、思わず私は自分の背後に誰かいるのかと後ろを振り返った。
だ、誰もいないよ!?
それもそのはず。
私は壁を背にして座っていて……それこそ紙みたいに薄っぺらな人じゃないと、私と壁との間には立てないんだもの。
目の前……目の前……目の前……。
呪文みたいに3回唱えてみてから、まさかね、と言う結論に達した私は、恐る恐る自分を指さして「もしかして……私?」と小首をかしげた。
違う、違うって苦笑まじりに否定されるのを期待したけれど、「うん」ってうなずかれて瞳を見開く。
ちょっと待って?
久遠寺くん。
何でそんな涼しい顔をしてるの?
いま告白された気がしたのは、私の気のせい?
彼の雰囲気は、まるで今日はいい天気だねって世間話でもしているように普通で。
口元に淡く浮かんだ笑みも、さすが王子様と呼ばれるだけのことはあるなって思わず見惚れてしまいそうになるくらい。
なのに。
あれ?
どうしたの?
じっとそんな彼を見つめていたら、久遠寺くんが急にうつむいて固まってしまった。
そんな王子の変化に、私はおろおろと戸惑ってしまう。
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