118人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、あの……」
この状況で勘違いです、ごめんなさい!とはとても言い出せない。
でも……このままじゃ絶対良くない。
「あ、あのね、久遠寺くん、聞いて? え、えっちゃん。か、彼女も久遠寺くんのこと好きでっ。だから私、この状況は受け入れられないっていうか……。そのっ、えっと……ごめ、なさっ」
久遠寺くんの勘違いを指摘できない弱さと、でもえっちゃんの気持ちもないがしろには出来ないという思いの間でグルグルした結果――。
私ってばえっちゃんの気持ちを勝手に久遠寺くんにバラしてしまったばかりか、まるで私自身も久遠寺くんのことを好きみたいな言い方をしてしまった。
バカ萌々! 何言ってんのっ!
これ、何重苦になってるのっ!
そう思ったら、自分の不甲斐なさに泣きそうになってしまった。
「春川さん……、ちょっと落ち着いて?」
と、心優しき王子様は、私の涙目の真の理由なんて知らぬげに、優しく頭を撫でてくれて。
「ごめんね。僕のせいでそんな顔をさせてしまって」
そんなことを彼に言わせてしまうことが、また申し訳なくて。
居た堪れなさにギュッと目をつぶったら、その拍子に私の目から離れた涙が、ポトリと一雫……先程届いたばかりの紅茶に落ちて波紋を広げた。
久遠寺くんの方に落ちなくて良かったって……ぼんやり思ったの。
最初のコメントを投稿しよう!