118人が本棚に入れています
本棚に追加
【side:如月隆之介】
今日も今日とて酒が入っているので、移動は電車。最寄りの駅から実家まで欠伸をしながら歩き、何も考えず実家の扉を開けたら、玄関に兄貴の靴があって――。
げっ、と思った俺は、ワンピースのベルトだけとって、そそくさを家を後にした。
(つか、何でいるんだよ……)
いつもなら仕事の日に違いないはずなのに。
兄貴の勤務先は年末年始を覗いて年中無休だが、兄貴の休みは定休だった。実際、今までだってその日を避けて帰省していれば、顔を合わせることはなかったのだ。
そのせいで、最近ではいちいち母親への確認もしなくなっていた。それが仇となった。
「いつになったらうちで働く気になるんだ?」
早く家を出ようと、急くように靴を履いていたとき、背後から声がした。
俺は振り返らずに、「今んとこその気はねぇなぁ」とだけ答えた。
「相変わらず親不孝なヤツだな」
リビングの入り口に身体を凭れかけさせ、口端を僅かに引き上げているさまが目に浮かぶ。
俺は振り返らないまま、
「親孝行は兄貴に任せるよ」
とだけ残して、家を出た。
最初のコメントを投稿しよう!