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「じゃあ、さ、春川さん。……例えば、こういうのはどうかな?」
記憶の中で、久遠寺くんの静かな声音が蘇る。
その声は優しさにあふれていて、私を気遣ってくれているのが分かるものだった。
「――?」
何を言われるんだろう?と緊張に震える手を握り締めながら久遠寺くんを見つめたらフッと柔らかく微笑まれた。
「そんなに緊張しないで? 僕は春川さんを困らせたいわけじゃないんだ」
つむがれる言葉は、どこまでも温かくて優しい。
でもそうであればあるほど、彼を騙しているという罪悪感がチクチクと胸を刺すの。
「えっと、その前にひとつだけ。春川さんの親友の彼女。……確か林田さんだっけ? 彼女が……その……僕に好意を持ってくれてるっていうのは確かなのかな?」
一応確認ね、とやんわり告げられて、私は口ごもる。
ここで「確かです」というのはやっぱりいけない気がするの。
だってえっちゃん、私に久遠寺くんへの告白を頼んできたわけじゃないから。
「あ、あの……多分……。な、何となくそうじゃないかなって……そう思って……」
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