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すごくモテるはずなのに、今まで浮いた話のひとつも聞かなかったのは、柚弦くんが言い寄ってきた女の子たちに、優しく波風を立てないようにふんわりとお断りをしていたからじゃないかなって思って。
私の声は聞こえているはずなのに、すぐには何も答えない柚弦くんを見て、その思いは強まるばかり。
そうして彼が静かに考えるようにカクテルグラスに口を付けて、ゆっくりと数口中身を飲みこむ様子を見て、柚弦くんが声を発するより先に返事が分かってしまったの。
「誘ってくれてありがとう。でも、ごめんね。僕、好きな子がいるから……」
柚弦くんがそう言って静かにグラスを天板に戻したとき、私、「ああ、やっぱりな」って思った……。
みんなで下の名前を呼び合おうって提案しても、柚弦くんだけは頑なに苗字呼びを崩さなかった。
私だけに対してなら冗談めかして文句のひとつも言えたのだけれど、それは萌々ちゃんに対しても、だったから……。だから私、そこも指摘できなかったのだけれど。
あれにしたってきっと、柚弦くんなりの〝線引き〟だったんだよね。
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