それぞれの事情

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意識のない男を密貿易用の輸出倉庫に運び、ユリは一息つく。男に盛ったのは強力な睡眠導入剤だが、一回使う分には商品に大きな影響はないだろう。 女はプロだった。 女の仕事は大手貿易会社という肩書を隠れ蓑に、犯罪者たちを非合法な臓器売買の商品として売りさばくこと。 別に悪いことだとは思わない。 非合法とはいえ、本当に必要としている人に臓器を提供し、あまつさえ世にはびこる犯罪者も減らしているのだから。私はそれに対する正当な報酬を頂いているだけ。 女はそうやって、女の財産に目を付け近寄ってきた結婚詐欺師たちや金に目がくらんだものたちを摘み取り、需要に応じて供給することで多額の利益を得ていた。 今度の男は病気があるなんて言っていたけれど、どうせそれも嘘だろう。大丈夫、私はプロ。仮に病気を抱えていても買い手がつくまでは面倒を見てあげるから。 女は一仕事終えた解放感を胸に抱き、仕事場を後にする。 既に真夜中。女が倉庫を出た時、暗がりから出てきた何者かが女の胸にナイフを突き立てた。 「どうして…。私は犯罪者を…。」最後まで言い終えることなく女はこと切れた。
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