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一日目の夜が明けた。
最後に交代で立っていたベイカーが、すでにキャンプの周りを片付けてあった。
「水でも浴びたいなあ」
ギガンテが近くの沢に降りる道を指さした。
「リーダー、いいだろ?」
ベイカーは軽く肩をすくめた。
「オレはまだ片付けが残ってる」
ホーク、行こうぜ、とギガンテは声をかけてからメントスとサンライズに向かって
「オマエらは?」
と聞いてきた。
昨夜はなんだか蒸し暑かったので、確かに冷たい水はありがたい。
「上半身だけでも拭ければな」
とメントスも立ち上がった。
「オレは泳ぐぜ」
ギガンテはすでに上着を脱いでいる。
「ワタシは顔だけでも洗いたいですね」
ヤルタがきまじめな口調で立ち上がった。
「10分で済ませろよ」
ベイカーが声をかける。
「あまり濁らせるなよ、後で飲み水を汲むからな」
「はい了解」
ギガンテとホークはかなり先に進んでいた。続いてメントス、そしてヤルタとサンライズ、が急に
「サンライズ、ちょっと来い」
背後のベイカーに声をかけられた。
「はい」
立ち止まった途端、頭の中に白い光がよぎった。
吹っ飛ぶ手足と肉片、悲鳴。
「待てギガンテ」
彼は駆け出して叫んだ。
「止まれ! 爆発するぞ!」
「何?」
ギガンテとホークが急に足を止め、メントスがそこにぶつかった。
「伏せろ!」
サンライズが追いついたヤルタにタックルを食らわせ、そのまま薮に伏せ、仲間も従ったその瞬間、
閃光が水際にさく裂した。
木々の影が濃く伸び上がり、すぐに縮んであたりは急に静かになった。
彼らは顔を伏せたまま、しばらく様子をうかがっていた。
「どうしたんだ」
ベイカーが走り寄った。「何だったんだ、今の光」
「スクレイパーだ」
閃光と共に強力な磁場を発生させ、至近の精密機器を狂わせてしまう武器だった。
耳についたタグは反応しやすく、あまり近いところでこの光を浴びると、人体に影響はないもののタグの色がオレンジか赤に変わってしまう。
ホークが、ようやく立ち上がる。
「畜生、どこの仕業だ」
耳のタグからカラー指数プレートだけ外し、色を確認する。
「よかった、遮蔽物があったおかげで、辛うじてグリーン」
続いてギガンテ、メントス、ヤルタ、そしてサンライズもタブの色をそれぞれ確認した。
一番ひどいギガンテでも、指数は0.2でグリーン、何とかかすり傷程度という判定だった。
「あんな所に、罠が?」ギガンテはまだ納得がいっていない。
「まだ他の班は入ってないだろう、このエリアには」
「わからんぞ」
ホークはあたりを油断なくうかがっている。
「徹夜して奇襲をかければ、一番離れた01だって何とか来られるだろう……しかし、危なかったな」
「誰か見張ってる時に、こっそり来やがったのかな」
全然気づかなかった、とギガンテが首をひねっている。
リーダー、最後だったんだろう? 何か見てないのか? と聞かれたベイカーも「いや」と答えてから何か考え込んでいるような厳しい表情を崩さない。
「オマエ」
メントスが何の感情も込めずにサンライズをみた。
「スクレイパーがあるの、分かったのか?」
「いや……」
光のせいだろうか? ぼんやりと頭が重かった。
「見えたような……爆発が」
人が吹っ飛ばされていた、でもあれは単なるスクレイパーだったし、どういうことだ?
持っている力を超えた、何か予知のようなものに、急に目覚めたのだろうか?
それにしては吹き飛ぶ手足が生々しい。そしてあの風景の色。
殺伐とした色彩に、何となく特徴があった。
呆然としたままあたりを見回す。
と、ベイカーの顔がこちらを向いていた。
ベイカーはまだ何か深い考えに沈んでいたようだったが、すぐに目の焦点が合った。
「水を汲んだら出発しよう、0630」
「了解」
彼らは、あたりの薮に目を光らせながら支度を済ませ、静かに出発した。
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