8人が本棚に入れています
本棚に追加
初耳だった。
「リーダー研修、ですか」
特務課長の乃木がファイルを渡しながら、深くうなずいた。
「詳細説明があるから、必ずここの日時を空けておくようにね」
サンライズは呆然とした目を、手元の資料に向ける。
今週金曜十八時より。
東日本支部技術部特務課所属全リーダーに対しての説明会、とあった。
「サンちゃんとこにも、来たんだ?」
ノギが行ってしまってから、隣の島から、ローズマリー・リーダーがヒマそうに寄ってきた。
一体この人はいつオシゴトをしているのだろう? つい首を傾げたまま、サンライズは近づいてくる彼をみる。
このローズマリーという男、自分よりリーダーとしても先輩なのに、見かけるたびにフラフラしているイメージがある。
見た目は若くかなりいい男ではある、そこまではいい。
格好が会社員にしては少し派手ではあった。髪を長くしてしかも前髪を一部脱色しているし、やや光沢のあるスーツが妙に細身の身体にフィットしているし、怪しさは限りない。MIROC《マイロック》の人かどうかも実は疑わしい、と思う事まであった。
それでも今は頼りがいのある先輩として「何でも訊いてごらん」的な笑みを浮かべている。
「あれ? もしかしてローズ先輩の所にもいきましたか?」
「あったぼうよ、てやんでえべらぼうめ」
まあ、時々どこの出身の人かも分からなくなる。
「これ、支部のリーダー全部出るんですかセンパイ?」
やだなあ、と新米に果てしなく近いリーダーのサンライズはまるで爆発物に触れるようにページをめくっていった。
「去年、こんなのなかったよねえ……」
「二年にいっぺんくらいかな?」いや、三年ごとかなあ、とローズマリー。
「だいたい二泊くらいかな? 無事に帰って来られれば」
「今まで無事に帰れなかった人っているの?」
「え?」
急に、ローズマリー先輩は、得意の何も考えてない笑顔になった。
「いたかなあ? いないかなあ? ゾーさんは前回遭難しかかったけど」
「そんなに危険なの?」
同じく飲み連れであるゾディアック・リーダーは、普段は大型草食獣のようにおっとりしているが、彼らよりずっとガタイもいいし、いざという時の身のこなしも闘い向きだという感じがする。
その彼が遭難しかかった?
ますますヤバい。
遭難なんてゴメンだとぷるぷる首を振り、サンライズは中を熟読し始めた。
現在、東日本支部技術部特務課の主任、つまりリーダー登録者は全部で二十四人。
その中の、任務中でどうしても参加できない数名を除き、ほぼ全員が一同に会し、数班に分かれて、『サバイバル合宿』を行うのだという。
「でもヘンだよな」
急にローズマリーがそう言ったので、何で? と聞いたら
「普通さ、リーダー三年目からが合宿の対象なんだけどなあ……」
そうつぶやいている。
リーダー二年目になったばかりのサンライズ、
「ナンデスト?」
と立ち上がり、あわててノギの所に向かった。
「どうした?」
ノギが意外そうに目を上げたので、彼はローズマリーに聞いたことを伝える。
すると
「まあ……一応そうなってるがね」
こちらも、何を考えているのかよく分からない笑顔でこう応えた。
「支部長判断で、今回は全員参加だって。文句があるなら支部長に言って」
サンライズはうなだれて、自分の席に戻った。
最初のコメントを投稿しよう!