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2 あんな会議は怖すぎる
説明会当日。
少し遅れて会場に入ったサンライズを、座っていた連中が一斉に顔を上げて見た。
始まるまでにまだ10分はあるというのに、みな集合が早い。
すでに空いている席は彼のところを含めて二つのみだった。
「サンライズ、前のそこに」
入り口に立った総務のクマシロが指した先、一番前の窓から二番目の場所に行く。
なんだか、ずっとみんなに見られている気がして、ついふり返る。
後ろの方にいたローズマリーと目が合った。サンライズは、軽く手を上げようとしたが皆の注目を浴びたままだったのであきらめてそのまま席についた。
ゾディアックは同じ並びの、一番通路よりにいた。やはり少し緊張した面持ちで、手元の資料に目を落としている。
あんな真剣な姿、見たことないなあ、とサンライズは遠慮しがちに彼の顔を二度見。
アイツにもあんな顔をさせる合宿なんだ、一体どうなるんだろう。
ようやく時間がきた。
支部長と、タカナシ技術本部長、そしてノギ特務課長が前のテーブルについた。
「集まりましたか」
ノギが部屋を見渡して、後ろの方に一つ、まだ空きがあるのに気づいた。
「誰が来てないんだ……」
手元の資料を確認している。
「遅れてすみません」
前のドアが開いて、クルーカットの大柄な男が入ってきた。
「メンバーから緊急の連絡が入り、対応中でした」
悪びれもせず、堂々とノギを見ている。
「ああ、ベイカーか」
ノギは、ほっとしたような表情で席を指した。
「あそこに座ってくれ、今から始める」
ベイカーは中に座った人々を一瞥し、席についた。
一瞬だけ、サンライズの方にやや長く視線を止めたような気がした。
やはり、リーダーになったばかりのホヤホヤの匂いがするんだろうか?
サンライズは落ち着かない気分で書類に目を落とした。
ページをめくった時、ふと、隣に座った男の袖口に触れてしまった。
「どうも」
そう声にしたサンライズよりやや小柄な感じで、やはりメガネの男が硬い表情でこちらをみた。
緊張しているのか、同じようなメガネ姿が気に触ったのか、何も言わずにまた自分の書類に目をやった。
今回参加するリーダーは全部で21名。それが四班各5~6名に分かれて、山の頂上にそれぞれ別ルートから上り、最終的に頂上のキャンプを目指す。
そこにあるゴールポストのポイントに、手持ちの端末でチェック。21人のうち誰か一人が最初にゴールできた瞬間、すべての行程は終了する。
一人一人は最初に1000点ずつ持っており、二十四時間経過した後、十分につき1ポイントずつ減点されていく。
耳のタグが取られた、つまり死亡とみなされた場合はマイナス500、ケガの場合はタグの色に応じてマイナス10からマイナス400までの減点となる。
ゴールポイントはゴールに到達した班のメンバー全てに1000点ずつ。生き残ったが途中ケガで休んだり気を失ったりというゴール未到達のメンバー員は、加点300、他班の生き残りは追加点数無し。
その他、途中で戦闘の他に、他班との交渉や駆け引きももちろんOK。
とにかく、自分たちが持てる技すべてを出しきって難事にあたるのがこの合宿の意義なのだそうだ。
しかし、少しだけ皆の顔を見渡してみて感じたが、どいつもこいつも
「え? 交渉とか駆け引き? ふざけんなそんな軟弱なことできっかバーロー」
みたいな表情だ。
すでに皆さん、戦いの神が降りているのか?
だったらオレは、『シェイク』とか『スキャン』とかを使ってもいいんだろうか?
そこが彼の一番の悩みどころだった。
それがあるからこそ、今まで何とか極限状態でも生き残れてきたのに。
この二つの力は、本来彼に備わった特殊能力だった。
幼い頃には母に鍛えられ、これは誰にも内緒だから、と言われたのもあったが自分ではそれほど『特殊』という意識もなく、ただ単に他人と違って『耳が動かせる』とか『絶対音感がハンパねえ』くらいの認識しかなかった。
それが何の因果か、前職の郵便局をよくわからない理由で解雇された後、このカイシャに拾ってもらい、結局はその技能を駆使してお仕事する羽目になってしまったのだ。
人の心を読む『スキャニング』と、ことばによる『キー』を使って相手の意思や行動を操る『シェイク』、この危険なシゴトについている特務員としてもかなり使える技能であるとはサンライズ自身も十分承知していた。
それでも、積極的に使う気にはどうしてもなれない。
性格的なものもあるのかも知れないが、人の心を覗きこんだりねじまげたり、そんな事は本来、許されるべきではないのでは? と入社してからずっと、そう思い悩んできた。
もちろん、ローズマリーやチームメイトには相談できない、あくまでも管理数名にしか明かされていないことだから。
カアチャンにも言ってないのに。
『力』を使うたびに起る頭痛も辛いし、何より……ばれた時にどう思われるか。どういう目で見られるか。それが一番怖い。
通常業務でも躊躇いながら使っているのに、それを単なる研修で使っていいわけがない。
なのに、それが使えないとなったら、いかにしてこんな恐竜どもの中で生き残れるというのだろう。
誰と組んでも、うまくやれる自信がない。
入局初日と、リーダー昇格の時と同じくらい心細さをおぼえ、サンライズは意味もなく何度も書類をめくって眺めていた。
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