2 あんな会議は怖すぎる

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 シェイクは任務でもたまに使うが、実はサンライズ、スキャニングが苦手だった。  仕事であれ何であれ、他人の心の中を『のぞく』という行為に、いつも後ろめたさを感じてしまう。  本部開発部からは、シェイクの技術はスキャニングを磨くことでも格段に向上する、と何度も言われていた。  スキャニングに絞った訓練メニューも提示されて強く勧められていたのだが、サンライズは何かと理由をつけて逃げ回っている。  今回は、合宿で『力』を使うことなどあるのだろうか?   しかし準備だけはしておく方がいいかも知れない。  腕力もあまり自信ないし、体力面だって、運動神経は必ずしも悪くないと思っていたにも関わらず、MIROCの特務課に入ってからは自分より優れたヤツは掃いて捨てるほどいたのだから。  しかも、今回の研修にはその体力自慢連中の、更にリーダーたちが集うのだ。  チートだろうが何だろうが、身を守る術はちゃんと考えておかなければ。  ぼんやりと白髪の司会者をみてから、先ほどの自己紹介の順番で思念を拾い上げていく。 「ではリーダーを決めたいと思う」  ホークが言いながら、ちらっとこちらをみた。 (コイツはあり得ねえ)  あまりにも言葉に近いハッキリとした思念に、つい発せられた言葉のようにうろたえてしてしまいそうになった。が、さりげなく目をそらす。  いいですよ、自分でもそう思ってるからな、この白髪オヤジめ。  次にヤルタ。少し前から神経質そうに腕時計をいじっている。  少し変わったデザインの、ごついヤツだ。ベルトで腕が痒いのだろうか?  だったら外せばいいのに、と思いながらも、そっと思念の触手を伸ばす。  色んな数が頭の中を駆け巡っている、数値、計算式、数字、また数字……何だこれ?   どうも、合宿時の各自ポイントがどのような状況でどのように変化するかを、ひとりでシミュレートしているらしい。理系の南こうせつといったところか。  メントスは漠然と、今までの仕事について一人反省会を開いていた。  見た目より親しみやすい思考回路だ。  ゆっくり覗いてみたい気もしたが、ひとまず置いといて、次のギガンテ。  今夜飲みに行く店のイメージ、そしてその後のお店の店先、看板。 ―― うわー、そういうシュミだったんですかあ。  見た目も肉食系だが、こりゃ、かなりディープだ。  というより、危ない部類に入るかもだ……知らない方がよかったかも。  ギガンテの思念が急に切り替わった。 (アイツ、殺してやる)  前回のシゴトで関わった誰からしい。   彼の頭の中でずいぶん誇張されて悪人面になっているようだが、背広姿のオッサン、議員だろうか? (保身に走りゃがって、身内まで売ろうとした)  その男への憎しみが、思い出すごと、バラエティ番組でみる風船のようにどす黒く膨れ上がっていくのがわかる。 (今度会ったら殺す)男がすぐ近くに立っている、ギガンテは自分の両手をヤツの首にかけた。(殺す殺す殺す殺すコロス)まずい、本当にやっちまう。  サンライズはとっさに立ちあがった。 「店の名は……」  そこではっ、と正気に戻る。  他のメンバーも、もちろんギガンテもあっけにとられて、彼をみていた。  何てこった。  冷や汗がどっとふき出した。 「……あの、すみません」 「立候補するの?」  ホークに聞かれて、 「いいえ、違います、申し訳ありません」  小声で言って、椅子に深く座り直す。 ―― 今オレ、『キー』拾っちまったんだ、ギガンテの妄想に対してシェイクをかけようとしていた。  冷や汗を拭きながら、ようやく打合せの内容に戻る。  スキャニングにはまだベイカーが残っていたが、今は恐ろしくて触手を伸ばすことができない。  立候補は、まずギガンテが手を挙げた。 「オレがやる」  それはとても怖い。もっと血の気の少ないヒトはいないのかな?  すると、ベイカーがさりげなく手を挙げた。 「オレもやってみたいな」優等生みたいな言い方だ。 「ああいう山地でよくシゴトするんだ」  緊張に満ちた空気、そこにホークがひとつ咳払いして言った。 「どうだろう? お互いのコトはよく分からんので……コイントスで決めていいかな?」  ヤルタは細かくうなずいた。メントスは二人を見比べてから「いいですよ」と一言。  ホークがサンライズをみたので彼もうなずいた。「いいです、それで」  トスの結果、ベイカーがリーダーに決まった。  ギガンテは表情を特に変えずに「決定には従う」と一言だけ。どさっと椅子に座る。  そこでおそるおそる、またギガンテの心の中をみる。  彼の思念はいつの間にかまた、今夜の店の様子に移っていた。 「集合日時と場所は、チームごとに連絡が来る。合宿前日には川崎で班訓練が一日。ここで最終的なすり合わせを行う、いいね」  司会はいつの間にかベイカーに替わっていた。  にわかリーダーなのに、堂々とした態度が板についている。  サンライズは、手元の資料に集中しているフリをしながらそっと、彼に触手を伸ばしてみた。
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