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男が一人でBarのカウンターで飲んでいる。時々カッコつける。
男 前髪を触って、舌打ちしてから、
「……まだちょっと濡れてんなあ」
ダルそうな感じで再び酒を飲み出す
女 雨を気にする様子で店の軒下に駆け込んでくる。ドアを開けて入ってく
る。
女 バッグの中身を見てから、
「……はあ、最悪」
男 女に気付き意識する様子でチラチラ見る
女 椅子に座って、
「……辛口で強いの貰える?……いいの、早くしてね」
男 鞄を漁ってハンカチを取り出す。ニヤッとしてから、
「……あの、もしよろしかったら、コレ使ってください。外、雨凄いです
よね」
女「……ああ、ありがとうございます。そうなんですよ、急に降ってきたから
慌ててこのお店に入ったんです」
男「いやあ、俺もですよ。いつもなら折りたたみ傘を持ってるのに、今日に限
って忘れました」
女「私もです。昨日の夜しっかりいれたはずなのに……」うつむく
男「まあ、そう落ち込まないでください。雨まだ止まないだろうから、俺で良
かったら話し相手になりますよ?」
女 顔を上げて「ありがとう。」
お酒を受け取り一気に飲む。男ビックリした顔。
「……そうね、話しましょう。あ、ちょっとお手洗い行ってくるね」
席を立ち、バーテンダーにトイレの位置を確認しながら、一旦はける
男 女を目で追う。向き直ってバーテンダーに、
「ねね、さっきの酒何?え?マ、マティーニ?……へえー……なら一気いけ
るかあ……、え?ああ、知ってるよ。だから、めちゃくちゃお酒強い人だ
なと思って……ん?うん、へえ“知的な愛”ねえ……(小声で)これは使えそ
う」
女 トイレから帰ってくる
「ハンカチありがとう。洗って返すね。」
バーテンダーに、
「すいません、さっきと同じやつもう一回下さい」
男「お酒強いんですね」
女「うーん、まあまあかな。でも種類とか全然知らないの。今頼んだやつも何
か分んないし」
男「さっきのは“ドライマティーニ”です。ちなみに、カクテル言葉は……」
カッコつけて、
「“知的な愛”なんですよ。なんだかあなたにピッタリですね」
女「ありがとう。何か嬉しい。あ、ねえ面白い話してよ。今みたいな雑学と
か、聞くの好きなの」
男「うーん、雑学ねえ……あ、今日俺達が会ったのって凄くたまたまじゃない
ですか、お互いこのお店の常連じゃないし。で、ここに来た要因とかって
いうのを遡って考えると、お互いいつも持ってる折りたたみ傘を忘れたっ
てことが、一番最初の要因なんです。これは些細なことなんですけど、結
果として俺達二人を出会わせるという大きな現象へと変化しました。こう
いう現象何て言うか知ってますか?」
女 無言で首を振る
男 カッコつけながら、
「バタフライエフェクトって言うんですよ」
女「へえ、知らなかったあ、賢いのね」
男 気をよくして、
「ちなみに諺の“風が吹けば桶屋が儲かる”ってのも似たような意味ですね」
バーテンダーに、
「あ、何かサッパリした飲みやすいやつ、ロングで」
女「諺なら、私も一つ面白いの知ってる。“ウンコンドン”って知ってる?」
男「はい?……ウコンドン?」
女「ウンコンドン」
男「ウドンコドン?」
女「ウンコンドン。もう、わざとやってるでしょ?」
男「すいません。で、何ですかそれ?」
女「うん、成功するには、幸運と根気と鈍いくらいの粘り強さの三つが必要だ
っていう意味の諺なの。
幸運の運に、根気の根で、最後は鈍いって字で鈍」
男「……最後、鈍じゃなくて良くないっすか?」
女「そうなのよ!粘り強さが必要条件なら“粘”でいいじゃない、“粘”で。ウン
コンネンで。まだましになるわよ。コレうちの会社の至る所に貼ってある
んだけど、明日行ったら書き換えてやろうかしら」
男「それはいいですねえ。もしそれで業績アップしたら、多分諺変わります
よ!」
女「ね!国語の教科書とかに載っちゃったりして!」
男「じゃあ、前祝いで乾杯!」
二人乾杯
女「そうだ、言葉には語源があるじゃない?今の乾杯だったら、“杯の中身を
飲み干す”が語源でしょ?」
男「はいはい、それはどこかで聞いたことがありますよ」
女「コレは有名よね?で、私この間初めて知った言葉の由来があるんだけ
ど……(ためてためて)セブンイレブンの由来知ってる?」
男「……セブンイレブン?コンビニの?……知らないです」
女「教えてあげる。(なまめかしく)“もともと朝七時から夜十一時までの営業
だったから”なの」
男「知らなかったです……やっぱり賢いんですね!」
女「フフフ、ありがとう」
男「すごいなあ……あ、じゃあこれは知ってますか?……セブンカフェの由来
です」
女「(ためて)セブンイレブンの……カフェだから?」
男「(びっくりして)すごい!よく分りましたね!俺これ、絶対分らないと思っ
たのに!」
女「(安心した様子で)うわー、あたった!知らなかったのに!ねえねえ、もっ
とないの?」
男「えっえっ、何だろうな、うーん、あ、ピータンの名前の由来です。あれ、
最初に作った人が飼ってたトリが死んじゃう前に、最後に産んだ卵で作っ
た料理なんですよ。で、そのトリの名前がピータンだったんで、弔いの意
味の込めて、ピータンになったんです」
前髪を払う仕草をしながら息をつく
女「そうだったんだ!なんだか泣けるエピソードですね」
男「ほら、次はあなたの番ですよ。俺、賢い人好きだなあ」
バーテンダーに、
「あ、同じものをショートで」
女 少し慌てた様子で、
「えっとー、そうね……あ、人間って何か考えるとき、ついつい上を見るこ
とが多いでしょ?あれ何でか知ってる?」
男「えーっと……」
右斜め上を見て考える
女「ほら、上見てる」
男「茶化さないでくださいよ。わかりません、何でなんですか?」
女「けっこう簡単なことよ、脳みそが上にあるから。人は考えているところに
自然と目が行くようになってんの」
しきりにイヤリングに触れる
男「へえ!すごい!」
女「ほら!次!賢いんでしょ!?」
バーテンダーに、
「この人と同じものを」
男「ええっと、あ、シャンプーしてるときに後ろに気配を感じることあります
よね。あれ、目瞑ってる間に落ちた泡達がワーッて集まって、腰の高さぐ
らいのサイズの人型になって、後ろに立ってるから気配を感じるんです
よ。現象の名前は……ノールックバブルです」
女「え、何それ!?本当なの!?」
男「ほ、本当ですよ!はい、次、次!」
バーテンダーに、
「あ、何だっけ、マティーニで!」
女「えっと、えっと、あ、毛虫のゲジゲジの正体って、秋になると松の木の周
りに落ちてる茶色いモニョモニョしてるやつなのよ。あと、小学生にむし
り取られたネコジャラシの頭ね」
男「あ!?えっ、そうなの?植物が虫になるの!?」
女「そうなの!なるの!はい、次!」
バーテンダーに、
「今と同じのちょうだい!」
男「えっ!まだ続けます?」
女「続けるに決まってるでしょ!それとも何?もう終わりなの?」
男「……そんなことありませんよ!まだまだ出ますよ」
女「じゃあ、つ・ぎ・は?」
男「えっと……あ、最近の研究で判明したこと何ですけど、靴の裏に、あのマ
ジックテープのジョリジョリした固い方をこうやって付けてからスカイダ
イビングすると、雲に絡まって歩けるようになるらしいですよ」
女「本当に!?え、今度やろっかなあ」
男「是非ともそうしてください。はい!テンポ良く!次!」
バーテンダーに、
「あと、マティーニ!」
女「えっと、えっと……車は、タイヤがクルクルまわるから〈くるま〉って言
うの」
男「初めて聞いたその語源!」
女「はい、またひとつ賢くなったわね、次!」
男「えー!えーっと……」
女「はやく、はやく!」
男「え、待ってください!今思い出してるんで」
二人わちゃわちゃしてると、バーテンダーが怒り、二人急に静かになる
男「……はい、すいません。もう行きますね。出てどっかいきましょう」
女「……そうね、もう雨も上がってるだろうし、お会計お願いします」
二人それぞれ伝票的なのを受け取る
二人「こんなに!」
バーテンダーの方を見た後、顔を見合わせる
女「話しながらずっと飲んでたから、ね……」
男「気付かなかった……何でこんなに盛り上がったんですっけ?」
女「えっと、あなたのバタフライエフェクトの話からじゃない?」
男「……本当にバタフライエフェクトだ……」
暗転
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