きゅうりのチャームとなすのスキン

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 水鉄砲の撃ち合いは一旦休戦になって、僕たちは橋と河川敷の間に作った秘密基地に引き上げていた。 「助けてくれてありがとね、ナツキ」  ハルカが笑った時、奥歯に近い歯が抜けているのが見えて、なぜか目を逸らしてしまった。 「泳げないくせに飛び込むなよ。あそこは僕でも足が届かない場所なんだ。溺れ死んでもしらないからな」 「大丈夫だよ。私が溺れそうになっても、ナツキが助けてくれるからね」  なにか言い返そうとしたのだが、すぐに言葉が出なかった。横でニヤけた顔をしたシュウが肘で小突いてくる。 「なんだお前らラブラブか? いつのまにそんな仲になったんだ」 「うるさいな。そんなんじゃないよ」 「ていうかナツキ。俺の水鉄砲を投げるんじゃねぇよ。お前がハルカ助けてる間、流された水鉄砲を取りに行くの大変だったんだからな」 「悪かったよ。僕も焦ってたから」  ハルカが手櫛で絡まった髪を解いている。 「うわぁ……髪ぐしゃぐしゃのしびしょびしょだよぉ」  僕はさっきまで自分で使っていたタオルをハルカに放り投げた。 「ありがとう。ナツキはいつも準備がいいよね」 「お前らが何も準備しなさすぎなんだよ」  体が冷えたのか、濡れたままのシュウはくしゃみをする。 「お前一人だけ大人みたいだよな。そのままつまんねぇ大人になりそう」 「つまんなくてもガキよりはマシだ。お前が大人になった時なんか、想像もつかないよ」 「そりゃお前の想像に収まるような小さな男にはなってないだろうからな」 「なんだそれ。なんか夢でもあるのか?」 「世界を股にかけるような、ビッグな男。誰もが俺のことを知ってるような、そんなすごいやつになるんだ」 「犯罪者になって有名になるのだけはやめてくれよ」  一生懸命髪を拭いていたハルカが、急に立ち上がった。 「シュウくんの夢いいね!かっこいい!」 「そうだろう。こいつみたいに、子供の頃から擦れたやつになったら駄目だ」  言い返すだけ無駄だ。後で水鉄砲で懲らしめてやる。 「ハルカは将来の夢とかあるのか? まさかお前もビックな女になるとか言うんじゃないだろうな」  唸りながら、ハルカはしばらく首をかしげていた。 「う~ん……私は――」  ずいぶん考えた後に言ったハルカの将来の夢を、大人になった僕は忘れてしまった。  川で遊んだことは、ひと夏の思い出としてしっかり覚えているのに……。  いつだってそうだ。どうでもいいことは覚えているのに、ハルカの歯のように抜け落ちている。
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