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最初、僕とシュウは久しぶりなのもあって賑やかに会話していたのが、だんだん無言になっていた。
理由は明白。彼女が弱すぎたのだ。
続けざまに五回ほどプレイしたのだが、結果は無残なものだった。
そろそろシュウからメッセージが来るかなと思っていたら、案の定スマホが震えた。
『この子ちょっとやばくないか? このままじゃ、三勝どころか一勝だってできないぞ』
彼女が弱い理由は簡単で、作戦とかセオリーとか全く関係なしで、一人で敵に突っ込んでいって、すぐにやられてしまうことだった。
二人が黙っている間にも、彼女は一人でキャーキャーと騒いでいる。
「ああもう! 何でうまくいかないの? あともうちょっとでやっつけられたのに!」
「あの……申し訳ないんだけど、一人で敵に突っ込んでいくのはやめてくれないかな?」
「え? どうして? 近づかないと倒せないじゃん」
「いや、倒す前にやられちゃうから……ていうか、なすのスキンを手に入れる条件は、勝利することだから。生き残るために最善を尽くさないと……」
こちらが呆れた声で言っているのに彼女は気にせず笑い声をあげた。
「大丈夫だよ。私がやられても、ナツキくんが助けてくれるでしょ?」
その言葉で僕はなぜか、小学校の時によく遊びに行った、秘密基地のある川を思い出した。
あの時もシュウと一緒に遊んでいた。たまに入ってきてた女子がいて、その子が笑った時に奥歯に近い歯が抜けていたのが印象的だった。
「君……もしかして、ハルカなのか?」
ザザッとまたノイズが入った。彼女の通信状態は良くないようだ。
その間に、シュウが鼻で笑いながら言った。
「やっとフレンドの名前を思い出したんだな。ちゃんと謝っとけよ」
「違うよ。ほら、小学校の時、一緒に秘密基地で遊んでた女の子がいたでしょ? あのハルカだよ」
「……何言ってんだお前。だってあのハルカは――」
シュウが何か言いかけたのを遮るかのように、彼女は言った。
「そう! 私、ハルカだよ! ナツキくん覚えててくれたんだね! てっきり、みんな忘れてるのかと思った」
僕はコントローラーを置いて、前のめりになってディスプレイに近寄った。
「やっぱりハルカだ! 中学校以来だけど、元気にしてた?」
「うん! 私は幸せだから、心配ないよ」
幸せってどういうことだろう? 結婚でもしたのかな?
いろいろ聞いてみたいと思ったが、ヘッドホンから聞こえた大きな物音に驚いて声が出なかった。
「……ふざけるのもいい加減にしろよ。お前がハルカなわけないだろ!」
怒鳴るようなその声につられるように、僕の声も大きくなった。
「どうしたんだ急に。何か気に障るようなこと言った?」
シュウが息を呑むのが伝わってきた。
「お前知らないのか。ハルカはもう……」
シュウが何か言いよどんだ時、ディスプレイに映る僕たちの部隊から、ハルカのキャラクターが消えていた。
「あれ……ハルカ、落ちちゃった?」
「だから、ハルカなわけねぇだろ。そんなのありえねぇ」
「何でハルカじゃないって言い切れるんだ? ハルカのプレイが悪いからって、あんな追い払い方しなくてもいいだろ」
「……その様子だと、何も知らないんだな」
「知らないって何が?」
またシュウは考えるように黙り込んで、やがて静かに言った。
「お前、こっちに帰って来てるんだよな。だったら、今から家出れるか?」
「ああ……出れなくはないけど、もう深夜だぞ」
時計は3時を指していた。しかし、シュウがどうしても川に行こうというので、仕方なく出かける準備をした。
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