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きゅうりのチャームとなすのスキン
川の底は橋の上から見ただけではわからない複雑な形がある。
足の甲が見えるほど透き通っている場所は浅くて動きやすい。シュウがふざけながら撃った水鉄砲の水を僕は軽々と避ける。
けれど、濃い青に緑が混ざったような場所はとても深く、僕たち小学生の身長では底に足が届かない。そこにはまると、泳ぎに集中しないといけない。だから、シュウに狙い撃ちされる。
シュウを深い方へ追い込むようにしながら、僕は慎重に距離を詰めていく。
「くそ! ナツキ卑怯だぞ!」
「立ち回りだよ。頭を使って戦わないお前が悪いんだ」
往生際の悪いシュウはやけくそになって水鉄砲を乱射する。すぐに水がなくなり、ポンプを外してリロードしている間に、さらに追い討ちをかける。
目の前の撃ち合いに集中していたから、頭上の敵に気が付かなかった。
「水爆弾くらえ!」
何もしなくても破れそうなほど膨らんだ水風船が、橋の上から降ってきた。
上を向いた時、ちょうどその水風船が目の前に迫っていて、本当に爆弾のように顔で炸裂した。
「うわぁ! ハルカも卑怯だ! お前らみんな卑怯だ」
シュウが叫んでいるのを聞きながら、ハルカが橋から身を乗り出しているのを見て嫌な予感がした。
「必殺! ハルカボンバー!」
僕たちがいる深い場所を目掛けて、ハルカは飛び降りた。ハルカの小さな体でも、橋の高さのおかげで、大きな水しぶきが上がった。
その時に浮かんだ虹色に意識を奪われて、水しぶきを避けることを忘れた。
「やったぁ! 二人とも私がやっつけた!」
ハルカは笑い声をあげながら、手足を忙しくバタバタさせている。楽しそうだが、もがき苦しんでいるようにも見える。
そうだ。ハルカは泳げないんだった。
「助けて、ナツキ!」
僕は水鉄砲を手放して、バタバタしているハルカに泳いでいった。
ハルカが飛び込んだことによって生まれた波が、僕の顔に押し寄せて呼吸を奪う。ハルカがもがけばもがくほど、水が迫ってくる。
呼吸ができない。焦燥が死を想起させる。
助けを求めるハルカの手に捕まったら、僕も引きずりこまれるのではないか?
水底は存在せず、僕とハルカを飲み込むように口を開けて待っている。そんなイメージが頭をよぎる。
「今助けるから、待ってて!」
僕は頭を低くして潜り、ハルカを抱えるようにした。強張った身体から力が抜けていき、僕らはしばらく言葉なく浮かんでいた。
脳裏に焼き付いた恐怖を水に溶かすには、こうして待つことしかできなかった。
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