超ハイパーアルファと結婚した平凡なオメガの新婚生活

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 出会いは大学の入学式。  これから始まる新生活に胸踊らせながらキャンパスを歩いていたミライはふと、焦げ付くような熱い視線を感じて立ち止まった。  振り返った先にいたのは、芸能人と見まごうばかりの美しい男。  一目でアルファとわかる立派な体躯と整った顔立ち。  薄茶色した瞳がミライを射抜いている。  全身に絡みつくような視線を受けて……ミライもまた、彼から目を離せない。  心臓が痛いくらいに高鳴りを打つ。  息が弾み、体温が急上昇して、思考がトロトロと蕩けていく。  彼から目が離せない。否、離したくない。  なのに自然と涙が込み上げて、彼の姿がぼやけてしまう。  あぁ嫌だ、もっとあの人を見ていたいのに……けれど涙は止まるところを知らず、ますます溢れてくるばかり。  そのことが悔しくて、胸が苦しい。  ホロホロと涙を零すミライを見て、男は慌てた様子で駆け寄った。 「泣かないで……」  キュッと抱きしめられた途端、ふわりと芳香が漂う。  サンダルウッドに似た清々しいフェロモン。それを感じた瞬間、周囲の喧噪が一瞬にして消えたような気がした。  耳元から聞こえるトクトクと力強い鼓動と微かな息遣いだけが、ミライの世界に木霊している。  この世にいるのは自分とこの男の二人だけ……そんな錯覚にすら囚われた。  やがて涙は自然に止まり、ミライはようやく男を上げた。  男は随分と背が高く、首をうんと曲げないと顔を見ることすらできない。そんな身長差も、ミライにとってはトキメキを加速させる材料だ。  切れ長で少し吊りめがちの目にスッと通った鼻筋。  血色のよい艶めいた唇に自分の名前を呼ばれたら、どれほど幸せなことだろう。ミライの胸は希望と期待で、さらに高鳴りを増していく。 「ねぇ」  男の口が自分の名ではない言葉を紡いだことに、ミライはショックを隠せなかった。  しかし次の瞬間。 「俺はトーマ」 「トーマさん……」 「君の名前は?」  あぁそういえば、まだ名前を名乗っていなかった。これじゃあ呼んで欲しくても呼ばれるわけがない。  自分の迂闊さにクスリと笑いがこみ上げる。  花が綻んだようなミライの笑みを見たトーマが、ハッと息を飲むのが聞こえた。 「ミライ……ぼく、ミライだよ」 「ミライ。俺の……運命」  トーマはミライを抱き上げると噛み付くようなキスをした。  刹那、周囲から騒めきが起こる。  しかしそんな喧騒など耳に入っていない二人は、なおも深いくちづけを交わす。  呼吸まで飲み込まんとするトーマのキスに、ミライの頭がクラクラとする。  ハフハフと息を吐きながらグッタリするミライを強く抱きしめたまま、トーマは大学を後にした。  その日二人は番になった。 **********  本能の赴くままに番い、そして結婚した二人。  突然の結婚生活は……幾多の困難が待ち受けていた。  ミライの第二性はオメガであるから、いつかアルファの元に嫁ぐのだろうと周囲はもちろん、ミライ本人も考えてはいた。しかし至ってのんびりな性格が災いしてか、いわゆる“花嫁修行”の類いは一切行っていなかったのだ。  しかも生来の不器用さがとどめを刺して、家事の腕前は壊滅的。  それでも大学を卒業したら料理学校に通わなくちゃいけないなぁ……なんて暢気に考えていたのだが、まさか大学に入ってすぐに番ができるなんて、当人を含めて誰も予想だにしていなかった。  運命ならば出会ってすぐに番になるのも仕方ない。  ただこのままでは嫁がせるのは忍びない。ミライに家事を仕込むから、一通りできるようになるまで結婚は待ってくれないかと渋るミライの母に、トーマは 「家事なら自分ができるし、何も心配しなくていい」  と言い張って譲らなかった。  もはや一時(ひととき)も離れてなどいられない。愛しい運命をすぐにでも自分の“巣”に連れ帰りたい一心だったのだ。  ミライ自身もまた、トーマと離れて暮らすことなど考えられず。  結局は二人の説得に母が折れる形となって、ミライはトーマのマンションへと引っ越していったのだった。  最初の宣言どおり、家事はトーマが一手に引き受けた。  日中は学校へ行って、帰宅後は家事を全てこなしてミライの世話を焼く。  一方のミライはというと、上げ膳据え膳の挙句ただひたすらに愛される生活が続いたのだ。  しかしすぐに、これではだめだ……という気持ちが高まっていった。  愛する人のために何かしてあげたい。自分は何ひとつ満足にできないけれど、何事もやってみなければ上達しないではないか!  ポジティブで頑張りやさんのミライは早速トーマに「ぼくも家事をしてみたい」と直談判をした。 「ミライはそんなことしなくていいんだよ。それとも今の生活に不満があるのか? ミライがこれまで以上により快適に過ごせるように、執事養成講座でも受けてこようか……」 「そう言うことじゃないんだよ。ぼくだってトーマさんのためにご飯を作ったり、お布団干したり、シーツ洗ったりしたいんだ」 「っ……!! ミライが俺のためにっ!」  ミライの健気な言葉に感動し、膝から崩れ落ちるトーマ。  愛する運命が自分のために何かしようと考えるその気持ちが嬉しすぎて、うっかり絶頂しそうになってしまう。 「でもね、ぼく何もできないじゃない? だからトーマさんにいろいろ教えて欲しくて」 「あぁわかった、俺が手取り足取りいろいろ教えてやるから任せてくれ」 「わーい、ありがとう! トーマさん大好き!!」  嬉しさのあまり抱きつくミライ。ミライの体から放たれる、ホワイトチョコレートのごとき甘いフェロモンが、トーマの鼻腔を擽った。 「何から教えてもらおうかな」 「まずは洗濯なんてどうだ?」 「洗濯機のボタンポチすればいいんだもんね! ぼくにもすぐできそう……ってトーマさん、何でぼくのお尻触ってるの?」 「洗濯を教えるためにはまず、汚れものを作らないと」  そう言うとトーマはミライのカーゴパンツの中に、シュルリと手を入れた。  滑らかで、それでいてしっとりと吸い付くようなきめ細かい皮膚の感触を堪能するトーマ。大きな手が形のいい尻をグニグニと弄ぶ。 「えっ、あっ待って! そんなとこ触っちゃやだぁっ」  トーマによって散々に開発されたミライの体は、今や触れられただけでもすぐに快楽を拾ってしまう。  息が自然と弾む。甘い吐息が漏れるのを抑えきれず、ミライはくふんと鼻を鳴らした。  感じ始めているミライの様子に、トーマの口角がジワリと上がる。 「じゃあまずは下着とシーツの洗い方から覚えような」  トーマがこれから何をする気か察したミライは、全身で拒否をした。 「んはぁっ、違うものからで、あっ、んんっ……!」  しかしオメガで、しかもただでさえひ弱なミライが、アルファのトーマに勝てるわけがなく。  カーゴパンツだけずり下ろされ、ボクサーブリーフごしにかわいらしい肉芽を指でなぞられた。 「下着とシーツは体液が付きやすいから、まずは汚れた箇所を軽く手洗いするんだ。もう先走りがこんなに染みてる。厭らしい子だな、ミライは」 「だってトーマさんがあっ、はぁっ、んっ……やっ、えっちなことするからぁっ!」  亀頭を摘ままれ、揉みしだかれる。  あまりの刺激にミライの足にキュッと力が入って、思わず内股になってしまう。  下半身がガクガクと震えて、上手くバランスが取れない。そのまま倒れ込みそうになったミライを、トーマはすかさず抱き留めた。  トーマの首にしっかりとしがみついたミライは、ただただ喘ぐことしかできない。 「ふぁっ、も、やめてぇぇ」 「そんなこと言っても腰が揺れてるぞ。本当にミライの体は素直だな」 「いやっ、そんなこと言わないでっ……」 「興奮した? 後ろもすっかりグショグショじゃないか」  感じやすく濡れやすいミライのボクサーには、前も後ろもグッショリと濡れそぼっている。 「これじゃあ洗濯、大変だな」  そんな囁きをわざと耳元でするものだから、ミライの後孔がますますジュンと濡れていく。 「もっ、いいからぁ……」  まだ日の高いうちからえっちな行為を……と思うと、罪悪感が半端ない。  続きは夜に譲って、今は洗濯だけ教えて欲しい。切にそう願うミライだったが、トーマの手は止まらない。  ボクサーを脱がせると、愛液がしとどに溢れる後孔に手を伸ばして指を一本、ツプリと差し入れた。 「んあぁっ!!」 「あぁほら。指が一本、すんなり入った」 「んぅーーーっ! 掻き混ぜないでっ……あぁっ、ひぃっ」 「もうこんなにジュブジュブ音立てて。気持ちいいんだ」 「んっ、くぅっ……気持ちいぃよぉ、あぁぁん……」  先ほどの罪悪感はどこへやら。  トーマに後孔の入り口をいじられただけで、ミライの理性はあっという間に瓦解した。  腰が愛しい男の指を追うように震える。 「ミライは本当にかわいいな」 「もっと……もっとしてぇ」 「ん。じゃあもう一本増やすぞ」  ミライの返事など聞く前に、トーマは中指に続き人差し指を中に潜り込ませた。  グチッと水音が響き、ミライは小さな悲鳴を上げて背が弓なりにのけ反らせる。  トーマの指はすぐさま奥深くへと潜り込み、硬くしこった前立腺を撫でさするように愛撫した。 「あぁっ!!」  鈴口からトロトロと溢れていた先走りの汁がピュクリと飛んで腹の上に落ちた。  無色透明の粘液が、ツゥッと流れてヘソに溜まる。  その光景があまりに卑猥に見えて、トーマの喉がゴクリと鳴った。 「トーマさんの指ぃっ……太っ……気持ちいぃよぉっ」  顔を真っ赤に染めて喘ぐミライ。  だいぶ感極まっているようだ。  ミライのしどけない痴態に、トーマの我慢も限界だった。 「指だけでいい? 俺のコレ、欲しくない?」  ミライの手を己の雄に導きながら囁くその声は、少しばかりうわずって聞こえる。  トーマの欲望を感じて、ミライの子宮がキュンと疼いた。 「欲しい……トーマさんのおちんちん挿れてぇ……」 「素直だな。かわいいよ、ミライ」  トーマは性急に前を寛げると、パンツも下着も取り払う間もなくミライの後孔に屹立を突き立てた。  グッと腰を沈めると、小さな蕾は大きな雁首を案外すんなりと飲み込んだ。  水端の縁を抉るように侵入を果たすトーマ。甘い刺激がミライを襲う。 「……んっ! あぁぁっ、トーマさんのぉちんちんっ! 凄いっ、あっ、あぁんっ!!」  グズグズに蕩けた卑肉は長大な剛直を素直に受け入れ、やわやわと締め付ける。  キュッと締まったナカに、トーマがクッと息を詰めた。 「あーーー、ミライのナカ、最高だ……こんなの小さい孔なのに、俺のちんこ美味しそうに飲み込んでる」 「じょぉずっ? ぼく、ちゃんとできてるっ?」 「凄い上手だよ。ミライは最高の奥さんだ」 「あぁっ、嬉しいトーマさんっ」  歓喜に包まれ、トーマにギュッとしがみつくミライ。白い肌はいつしか朱に染まり、その体はしっとりと汗ばんでTシャツまでも濡らしている。  愛しい番をここまで熱くさせたのが自分であるということに、トーマの興奮は増す一方だ。  ミライの腰を両手で抱え直すと、そのまま一気に最奥めがけて突き上げた。 「あっ、やっ、激しっ! はぁぁんっ!」  突然の襲撃になす術なく翻弄されるミライ。  全身に浮かんだ汗が珠となって宙を舞う。 「あ、あっ!! も、だめぇっ!! そんなにされたらイッちゃう!! イッちゃうからぁっ!!」 「いいよ、イッて……俺ももう保たない……あぁ、ミライのナカ、最高すぎだ……」 「トーマさん、気持ちいっ?」 「あぁ、気持ちいいよ」 「んっ、よかった……んぁっ、あっもぉ、ほんと、ダメっ、イクぅっ……あぁぁぁぁっ!!」  堪えきれなくなったミライは白濁を吹き上げ、その反動でトーマの肉をギュウッと締め上げた。  千切れそうなほどの収縮に、トーマの雄も爆発する。  数度腰を震わせながら、ミライの子宮目指して、大量の精の飛沫を放出した。 「ト、マさ……」  喘ぎすぎたせいか、ミライの声は掠れきっている。 「ごめん、ちょっとやりすぎた。水、持ってこようか?」  腰を引いたトーマの臀部に、ミライは足を絡めてしがみついた。そしてフルフルと頭を振って 「違うの。あのね、キス……」  してなかったから……と言われて、トーマは初めてそのことに思い至った。 「ごめん、つい夢中になって」  まだ繋がったままの格好で、トーマはミライにくちづけた。  触れるだけのキス。  それなのにミライはうっとり微笑んだ。  幸せそうな笑みを見て……トーマの下半身に再び火がついた。 「えっ!?」  ナカでムクムクと大きくなっていく肉棒に、ミライは驚きと戸惑いが隠せない。 「トーマさん、なんでっ?」 「今のはミライが悪い」 「えっ、僕何もしてな、あっ!!」  再び始まった律動に、未だ絶頂の余韻が残るミライが抗えるわけもなく。 ――今日の洗濯は俺が済ませたほうがいいな。  抱き潰す未来を予感しながら、トーマはミライ抱え込むと最奥めがけて律動を再開した。 **********  こんなハプニングをたびたび繰り返しながらも、ミライは少しずつ家事を習得していった。  まだまだ失敗することのほうが多いものの、トーマは苦言を呈することなく、ミライに優しく教え続けた。  頑張り屋さんで努力を怠らないミライは、何度も失敗を繰り返しながらもへこたれずに前向きに取り組んでいく。  その努力が身を結びんだとき、トーマは過剰なまでの賛辞を送った。  褒められると伸びるタイプのミライは、徐々にではあるものの家事の腕前を上げていく。  二人の新婚生活は順風満帆。  ミライはこの幸せを噛み締めた。  しかし、そんな二人の幸せを認められない者たちもいるわけで。  実はトーマの生家は世界でも名だたる有名企業で、彼はその御曹司だったのだ。  トーマに憧れるオメガたちは大勢いて、中にはなんとか近付きになりたくて彼と同じ大学に進学した者もいるほど。  そしてあわよくば……と四年間の大学生活に賭けていたのだ。  しかしそんな目論見も、ミライの登場で打ち砕かれることとなる。  高嶺の花であるトーマを、突然現れたオメガに奪われた彼らは怒り心頭。  文句の一つも言わねば気が済まないと、構内を歩くミライを拉致して、人気(ひとけ)のない裏庭まで強引に連れ出したのだ。 「単刀直入に言うよ。トーマさまとの番契約を解消して」 「え、なんで?」  キョトンとした顔で問うミライに、周囲のオメガの苛立ちが募る。 「言われなきゃわからないの!? 君みたいな平凡で中流家庭出身のオメガは、トーマさまに相応しくないんだよ!」  たしかにミライの生家はごくごく一般的なサラリーマン家庭。しかも両親は揃ってベータなのだ。  金持ちの家に生まれたオメガたちから見れば、ミライの実家など平々凡々な中流家庭でしかないのだろう。  ミライを囲むオメガの中には、いわゆる名家と呼ばれ、その出自に誇りを持っている者も多数いる。  それがポッと出の庶民に、憧れのアルファを奪われたのだ。怒りと苛立ちは止まることを知らず、さらにはミライの態度がそれを加速させてしまった。 「いい加減、身の程を弁えなよ! トーマさまの隣には、一流のオメガが似合うんだ。君なんかが隣に立っていい人では、決してないんだからね!!」  キャンキャン吠えられて、ミライはコテンと首を傾げた。何やら逡巡しているような表情。  これはイケる……ミライの周囲に集まるオメガたちの誰もがそう思った。 「トーマさまは今、熱に浮かされているだけ。君は優しくしてもらって有頂天になってるかもしれないけど……」 「そうなんですよ!!」  オメガの言葉を遮ったミライが声が、心なしか弾んでいるように聞こえるのは気のせいだろうか? その場にいたオメガ全員が首を傾げる。 「トーマさん、凄くすごく優しいんですよ! 僕なんてまだまだ家事も満足にできなくて、シーツを下洗いするときは上手く絞れなくて床を水びだしにしちゃうし、料理なんて三回に二回は謎の物体ができ上がっちゃうんです。この前なんてハンバーグを作ったつもりがアメーバーみたいなやつが出来上がっちゃって。知ってました? 牛乳入れすぎるとタネが固まらないんですよ。それでデロデロになって全く固まらなくなっちゃって。でもトーマさんってば僕の作ったものはまんでも美味しいって言って、残さず食べてくれたんです! もうほんとトーマさんってば最高の旦那さまですよねっ! あと、掃除していて僕の手が届かないところは代わりにやってくれるんです。僕だって椅子を使えば掃除できますよーって言っても、『そんな危ないことをかわいいミライにさせるわけにはいかないよ』って! そのときの笑顔がもう、腰砕けるくらい素敵で、あのときはぼく、本気で気絶するかと思いましたよ。それにお裁縫も得意だからボタン付けもお手の物でしょ。あっ、それにね、この前僕のハンカチに刺繍してくれたんですよ! かわいい小鳥の刺繍。ねぇ、刺繍ってできますか? 僕は全然できないから感動しちゃって。もう、この人ってば神なの? って思っちゃいますよね。あっ、それとこれは僕の思い違いかもしれないんですけど、トーマさんがいるだけで家中が神々しく輝いて見えるんです。電気要らずですよね。さすがスーパーキラッキラアルファは違うなって僕感動しちゃって。それにセンス抜群だから僕の着る服も全身コーディネートしてくれるし、小物も全部トーマさんが用意してくれるでしょ。二人お揃いのシャツなんかも買っちゃうんですよ。ぼくちょっぴ恥ずかしいけど、でもトーマさんとお揃いってやっぱり凄く嬉しくて。それに買い物に行くと荷物を全部持ってくれるし、必ずアイス買ってくれるんです。しかもカップのトリプルですよ! 凄い高いのに嫌な顔一つしないし、いつも頑張ってるご褒美だって。ぼくなんかより、教えてくれるトーマさんの方が大変だと思うのに、嫌な顔も疲れた顔も一切しないんです。あーもう最高、本当に素敵すぎて辛い……。こんな毎日でバチが当たりそうって言ったら、ミライに近付く災厄は俺が全部跳ね除けてやるって!! あーやばい、思い出しただけで顔がにやけちゃう。至れり尽くせりすぎて、んもう幸せ! あっ、あとね、あとね! この前お風呂で僕の全身を……」  ミライの口は一向に止まらない。  頬を紅潮させ、目を輝かせながら、トーマとの幸せな新婚生活について語り続ける。  早口ノンブレスで繰り出されるトーマへの賛辞に、集まったオメガたちはすっかり毒気を抜かれてしまった。 「それから夜寝るときは必ず腕枕してくれて、僕が寝るまで頭をナデナデしてくれるし」 「あ、うん……もういいよ……」 「え?」 「君らがどれだけ幸せなのか、充分に伝わったから……」  正直もう、お腹いっぱいだったのである。  それに、トーマがどんなにミライを愛しているのかが痛いほど伝わりすぎて、聞いているのが辛くて仕方ない。  予想外のダメージを受けたオメガたちはフラフラになりながら、静かに去って行った。 「えっ、みんなどうしたんだろう。まだまだ話したいこといっぱいあったのになぁ」  入学してすぐにトーマと番ったミライは、残念ながら同じ大学に友だちがいない。  だからトーマとの楽しい生活の様子を誰かに話したくてウズウズしても、話せる相手がいなかったのだ。  降って湧いた惚気のチャンス。  今まで我慢していたこともあり、ここぞとばかりに喋り倒してしまったのである。  しかし全てを喋り尽くす前に、誰もいなくなってしまった。  まだ語りたいことがあったミライは、少しばかり不満である。 「あっ、でもまた聞いてもらえばいいのか!」  ナイスアイディアとばかりに喜ぶが、オメガたちにとっては迷惑千万。それにミライは気付かない。 「ぼくもそろそろ行こうっと」  帰宅しようと思いクルリと振り返ると。 「あれ?」  そこになぜかトーマが立っていた。 「トーマさん、どうしたの?」  愛しい番の登場に歓喜するミライの手を掴んだトーマは、無言でキャンパスを後にする。  ミライが何度呼びかけても、トーマは全く反応しない。その背中は何かを堪えているように見えて、ミライは少しずつ不安が募っていった。  タクシーに乗って二十分。二人の愛の巣であるマンションに到着。トーマは足早に部屋に向かうと、性急にドアを開けてミライを押し込んだ。 「あっ」  やや強い力で背中を押され、ミライはたたらを踏んでしまった。勢いのまま転びそうになったところを、トーマの腕が抱きとめる。 「トーマさん、ありがと……」  振り向いて礼を言った瞬間、噛みつくようなキスが降ってきた。 「んぅっ!」  すぐに割り込んできた舌に口内を貪られる。いきなりの展開き、目を白黒させるしかない。  長いながいキスがようやく終わり、息も絶え絶えのミライ。「なん、で?」と聞くのが精一杯だ。 「ごめん……」  前髪を鬱陶しそうにかき上げながら謝罪したトーマだったが、瞳の奥に欲望の炎が揺らめいている。  トーマはミライを横抱きにすると、大股で寝室へ向かった。そしてベッドにミライをソッと横たわらせると、着ていたシャツをやや強引に脱ぎ捨てた。 「先に謝っておく」 「何が?」  トーマの言葉に心当たりのないミライは首を傾げるばかり。  そんなミライの上にのしかかったトーマは、もう一度謝罪の言葉を口にした。 「ごめん、今日も止めてあげられない」  そして再びミライの唇を奪ったのだった。  あのとき、ミライがオメガたちに連れて行かれたことを知ったトーマは、すぐさま現場に急行したのだった。  ミライに何かあったら絶対に許さない……! 握った拳に力が籠る。  そしてようやくオメガの集団を見つけた。足音を忍ばせて静かに近付くと。 「トーマさん、凄くすごく優しいんですよ!」  満面の笑みを浮かべて、いかにトーマが凄いかを語りまくるミライの姿があった。  愛しい番の口から語られるのは、己への溢れんばかりの愛。それを聞かされて、感動しないアルファがいるだろうか、いやいない。いるわけがない。  胸にこみ上げる熱い想い。それが次第に下半身へと移動して。  とどのつまりが、ミライを無性に抱きたくて仕方なくなってしまった……というわけだ。  パンパンと寝室に激しい音が響く。  それに混じり合うように聞こえる粘着質な水音と、激しい息遣い。それからもう一つ。 「あぁぁぁぁぁぁっ!! とーましゃ、もっらめぇ……っ!!」  嗚咽混じりの嬌声を絶え間なく出し続けるミライ。  いつもより激しい交わりはあっという間に彼の限界を超え、気持ちいいを通り越して辛ささえ感じてしまう。  しかしいつもは優しいトーマも、今日は様子が違っている。 「ごめん、ミライ。本当にごめん。もうちょっと付き合って」 「やぁあああぁぁぁぁぁぁんっ!!」  昂りが一向に治らないトーマは、ミライの奥の奥、結腸まで屹立を押し込むと、さらに腰を振りたくった。 「あっ、やぁぁっ、イく、イッちゃうからあぁぁぁ!!」 「いいよ、何回でもイって」 「あっ、あっ! イッ……くぅぅーーーーー!!」  白濁を吹き上げるミライ。  それでもトーマの腰は止まらない。 「やっ! ぼくイったぁ……! イったからぁぁぁ!!」 「うん、でもごめんね。もうちょっと俺に付き合って」  しかし興奮しきったトーマが本当に“ちょっと”で済ませられるはずもなく。  結局ミライの嬌声は、朝まで止むことはなかった。  たっぷりと注がれたトーマの愛はミライの中で形となるのだが、二人がそのことに気付くはずもなく。  しっかりと抱き合いながら、幸せな気分で眠りについたのであった。
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