サイコパスとお姉様とヒロイン

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サイコパスとお姉様とヒロイン

「貴女も、前世の記憶持ちってやつなのかしら?」 ルイスとライザが退出後ー…足を組んでゆらりと揺らした紅茶の波紋を見ているベルンに突然問いかけられて、一連の成り行きを見ているだけだったイリンは、はっとした。 「は、はい」 「あれ?兄上は前世の記憶なんて信じていないって言ってなかった?」 「ぇえ。あんただけが言う分には信じてなかったわ。だけど、私の友達が言うのだから信じざるを得なくなったのよ」 そう言ってベルンはそっとカップを置いた。 「あはは、僕って信用ないんだなぁ」 「そりゃあね。何時も真面目な顔して嘘をついては、周りを引っ掻き回す様な貴方の言葉に信用性があるとでも?」 「…兄上は相変わらず僕にだけは辛辣ですね。 兄弟なんですから、仲良くしましょうよ」 「そう言いながら、何度も私の命を狙っておいて良く言うわね」 ベルンの言葉に、イリンはギョッとしてウルクを振り返った。 「仲良くなりたいのは(・・)、本当ですよ」 「貴方が皇帝になるのには(・・)邪魔だから消えて欲しいけど? うふふっ。残念ね、1番お邪魔な私だけはこうして生き残っちゃって」 「そんな…誤解ですよ。兄上はほら、子孫を残せないので特段驚異でもありませんしね」 ウルクは無害な笑顔で肩を竦め、イリンは額から汗を流しながら俯いている。それも無理からぬ事だった。目の前で行き交う会話は、耳にして良いものでは無い。 聞いてしまったら不味いものだということは、分かっているようだった。 「貴女は、ゲームとやらで知ってたんでしょ?第2王子がどんな人物なのか」 「…その…全てを知っている訳では…ましてやこんな。皇太子殿下のことを…」 〝殺そうとしていたなんて情報は知らない〟ーー…そう言いたかったのだろうが、口にするのは恐れ多いことであり、言いかけて閉ざした。 異様な雰囲気の中で、ウルクだけは朗らかに笑う。 「大丈夫だよ、それが本当なのだとしても、僕は裁かれないから」 ウルクの母、第2妃は既に亡くなってはいるが、国の根幹に関わる宰相や大臣、官僚を家門から多数輩出している実家の大きな後ろ盾は未だ健在。 同盟国の王女であった母を持つ皇太子のベルンよりも、大きな後ろ盾。 加えて、厄介なのがウルク自身も派閥を拡大する立ち居振る舞いが、自然と出来ており、派閥に入ってくれた者が旨い汁を吸えるよう、環境が整っている。 ウルクが何か悪事を行ったとしても、周りが証拠を消してくれるようになっていたことが、よりサイコパスな行動に拍車をかけていた。 「…第2妃の侍女がまずは行方不明になっていたわね」 「ん?何の話ですか?」 「貴方の周りで、不自然に人が居なくなっているという話しよ。始まりは数年前に消えた1人の侍女。その次は…あんたと同腹の弟で、まだ赤子だった第3王子」 「そうでしたっけ?」 「そうよ。不自然な死の始まりは第2妃…」 2人の話を聞いているうちに、イリンの顔色は青ざめて、ブルブルと震え出した。 「やっと気がついた?貴女が関わっているそいつが、どれだけヤバい奴なのか…ー。まぁ、今気付いたところでなんだけど」 「やだなぁ、その言い方じゃ、まるで僕が何かしたみたいじゃないですか。全部偶然ですよ。僕が何かした証拠なんか1つも無いですよね?」 「侍女はともかく、赤ん坊だった第3王子が行方不明なのよ」 「偶然、警備が手薄だったんじゃないですか?」 ベルンはその様子を見て、はぁ…と溜息をつく。 「そうね、貴方と、こんな話を今更しても不毛だわね」 「そろそろ、お帰りになられますか?」 「いいえ、わざわざ私が此処に来て、貴方とこうしてお茶をしているのよ?何かある事くらい、察しはついているでしょう?」 「では、何の用事があってきたんですか?」 「貴方と、最後の語らいでもしようかと思ったのよ。これでも一応、兄弟だったものね」 「ーー…」 「先刻、皇族会議で可決されたわ。 貴方の皇位継承権無効化。皇族からの除籍が決定したの」 「ーー…まさか、そんなことが簡単に出来る訳がない」 「いいえ、貴方は皇帝の血を継いでいないから。皇位継承権を持つ資格がそもそも無いわ。知っていたでしょ?」
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