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(障子の向こうが明るかったのは、月じゃなくて、この光のせいだったんだ)
そう気がつくと菜々子はムッとして、堂々と縁側へ出いく。
腕を組むと、菜々子は少年に言った。
「ちょっとそこのオバケ! うちのお庭で何してるのよ!」
少年ははたと動きを止めると、きょとんとした目で菜々子を見る。
ぱちん、と二人の目が合って、菜々子は一瞬ドキッとした。
少年の目は、吸い込まれそうに美しい。
大きな黒い瞳は、とても優しい光を宿していた。
風が吹いて少年の柔らかそうな黒髪が揺れる。
思わず菜々子は、少年に見とれた。
不思議な光が幻想的に浮かぶ中、しばらく二人は見つめ合った。
「僕が、見えるんですか?」
突然、少年が間の抜けた声を出した。
菜々子はハッと我に返る。
(いけない、いけない)
気合を入れるため両手を腰に当て、菜々子は言った。
「おどけて見せたってダメよ。うちのお庭は大事な薬草だらけなんだから、ちょっかいはやめてよね」
「あ、いえ、そんなつもりはなかったんですけど」
少年は困ったように首をかしげる。
「東京がこんなに明るい所とは知らなかったので。ついクセで『昼の名残(なごり)』を集め始めたら、収集がつかなくなってしまいました」
頭に手を当てながら少年は笑った。
「ここの草花は寝不足で大変でしょうね」
少年が何を言っているのか、菜々子はちっとも分からない。
菜々子は頬を膨らませて言った。
「ちょっと。悪いけど、何言ってるか分からないわ」
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