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「お友達の間で流行っているの。田舎オバケが知らなくて当然の、ハイカラな食べ物よ」
菜々子がツンとして言うと、少年は楽しそうに笑った。
「あんパン自体は知ってますよ」
「本当かしら」
菜々子は面白くなってきて、ニヤリとしながら言う。
「本当ですよ」
少年はのんびり返事をすると、続けて次の質問をしてきた。
「東京は好きですか?」
「あったり前でしょ!」
菜々子は即答する。
「この国で一番の都(みやこ)だし、なにより、私の家族とお友達が、みーんないるところなんだから!」
菜々子が自慢げに言うと、少年も嬉しそうに笑った。
「よかった。安心しました」
少年の微笑みがあまりに優しくて、菜々子は再びドキッとする。
(ちょっと、なんでこんなにドキドキするのかしら)
菜々子は戸惑って胸を押さえたが、少年はそんなことはお構いなしだ。
「それで」
少年は言った。
「お名前は何とおっしゃるのですか?」
「ちょっ、しつこいわよ?!」
じっ、と少年は菜々子を見つめる。
「もー……」
菜々子は溜息をつきながら少年を睨み返したが、相手はどう見ても引き下がりそうにない。
菜々子は観念すると、仕方なく言った。
「藤岡(ふじおか)菜々子(ななこ)と申します。あなたは?」
少年は再びキョトンとした。
名前を聞き返されるとは、思っていなかったらしい。
「ちょっと、私にだけ名乗らせるつもり?」
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