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菜々子が詰め寄ると、少年は「えーと」と少し考え、言った。
「たくさん、あるんですが」
「知らないわよ! 名乗ったら名乗り返す! 礼儀の問題でしょ、これは」
菜々子がそう言うと、
「なるほど。そうですね」
と少年は笑った。
「郷里では、『夜ノ君』とよく呼ばれます」
「ふぅん」
菜々子はニコッとして言った。
「なんだか羊羹(ようかん)みたい」
「あはは! そんなことを言われたのは初めてです」
少年も楽しそうに笑うと、まるでマントのように肩の着流しを掴む。
すると、それが何かの合図だったかのように、突然強い風が吹き始めた。
少年の髪が揺れ、小さな光たちがふわふわと舞い上がる。
「なに?」
菜々子が驚いて声を上げると、少年が言った。
「心配でしたが、確かに、あなたなら大丈夫ですね」
「なんですって?」
風がさらに強くなって、菜々子は目を開けていられなくなる。
「大丈夫ってなによ!」
菜々子の質問に答えはないまま、どこか遠くから、しかしとてもはっきりと、少年の優しい声が聞こえた。
「道中、お気をつけて」
ハッ、と菜々子が目を覚ますと、朝になっていた。障子からは爽やかな朝の光が差し込み、小鳥たちのさえずりが聞こえる。
菜々子はしばらくぼーっとしていたが、布団からむっくりと起き上がった。
(夢か)
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