プロローグ

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プロローグ

 真夜中に、ふと、菜々子は目を覚ました。  (こんなに月って、明るかったかしら)  布団に入ったまま、庭側の障子を見てまばたきをする。  障子の半紙を通って、やわらかな光が部屋を照らしていた。  (月明かりで目が覚めるなんて初めてだわ)  そう思いながら菜々子は布団を出た。蚊帳をくぐり、薄く光っている障子をそっと開ける。  「!」  驚いて、菜々子は息を飲んだ。  縁側のその向こう、庭の真ん中に、知らない少年が立っている。  (お、オバケ?)  菜々子は彼の横顔を見ながらそう思った。  立っているのは綺麗な少年だった。  黒いズボンに半袖シャツを着て、胸ポケットには氷のような花束が飾られている。そして何故か、夜空のように黒い着流しを、袖を通すでもなく、肩に羽織っていた。 少し妙な格好ではあるが、ただ立っているだけなら普通の少年に見えなくもない。  しかし。  (何よ、あの丸い光)  菜々子は目を細めた。  少年の周りに、得体の知れない不思議な光が浮かんでいる。  菜々子が少年をオバケだと思ったのは、彼の周りに浮かんでいるその光のせいだった。  (火の玉……じゃないわね)  菜々子は思った。 ただ丸く優しい光が、庭中にふわふわと浮いている。  不思議な少年は、その光を捕まえようとしているのか、形の良い大きな目で光の動きを追っていた。
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