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夕食どき
「今日は災難だったわね」
桂木京子はお風呂から上がった息子 透真に言った。
「最近、エラー多くて嫌んなっちゃうよ」
透真は頭をタオルで拭きながら口を尖らせた。
ここは宇宙にある巨大人工衛星。その名もアース。居住を目的としており、地球の周りを回りながら、三万人が暮らしている。
アースは過去のいくつかの居住用衛星で起きた悲劇を教訓として、宇宙でも人間らしい人生が送れるように注力して作られている。
過去の教訓。それは、地球の自然から離れると人は精神的ストレスを受け、心身の健康を大きく損ねるということ。
アースは小さな地球を作ることを目指して建築された。名前もそこから由来して、そのままアースと名付けられた。
その為、衛星内でも地球の天気を再現できるようになっている。つまり、雨も降れば雷も鳴る。
ただ、予めプログラミングされた気象現象が気象発生装置から再現されるので、天気予報は百パーセント当たる…はずだった。
実際は、最近になって気象管理機器のトラブルが多発しているため、まさに地球に住んでいるかのように天気予報がはずれ、突然雨に降られる。
京子が夕食のハンバーグをテーブルに用意すると、透真は吸い寄せられるように席についた。そして、京子がフライパンからソースをよそう前に、早々とひと切れ口に入れる。
透真はモゴモゴ言った。
「ねぇ。ここに引っ越すことが決まったとき、じいちゃんは地球に残るんだと思ってたよ。ばあちゃんのお墓があるから」
「そうね。でも、おばあちゃんって新しいことが好きな人だったから。生きていたらきっと、宇宙に住みたいと言ったと思うわ」
「ふーん」
透真はふた切れ目のハンバーグに取りかかった。
「今日、じいちゃんのところに寄ったんだ」
「まあ!ずぶぬれで?着替えてから行けば良かったじゃない」
京子は透真の皿に少しだけソースを垂らすと、自分の皿には多めに入れ始めた。
透真はそれには文句を言わなかった。
「じいちゃん、ここが地球だと思ってたよ」
京子の腕がピタリと止まった。
ソースがテーブルにニ滴落ちた。
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