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何もできなくなったし、何もしなくなった。
自分としては納得いかないけど、湖雪はこうなることを望んでいたみたいなので仕方ない。
恐怖はある。
もし今、湖雪に振られたら、俺は何もできなくなる。足も、家も、金も職も何も無いから。
そういうことを毎日理解している。
湖雪に何から何まで世話を焼いてもらう度に、湖雪がいないと生きていけないことを理解している。
それを受け入れる覚悟を、俺はした。
「夏樹くん、今日の朝ご飯ね、久しぶりに出汁で卵焼き作ってみたの」
にこにこしながら湖雪は毎日俺に飯を運んできて、俺の隣で一緒に飯を食う。
毎日だ。これを続ける。
続くとは思ってない。
きっといつか、湖雪は飽きる。
疲れる。呆れる。後悔する。
それでもいい。
湖雪がいらないと言うその瞬間まで、俺の全ては湖雪のものだから。
俺はそう言った。そういう約束をした。
俺のそばにいるのも、俺から離れるのも、全てを委ねる約束だ。
「湖雪」
「うん?」
「……ありがとう」
それなら、仕方ない。
もう、俺がどうなってもいい。
湖雪のものだから。
「うん!」
湖雪は、俺を愛してくれるのを、知ってるから。
それでいい。それだけでいい。
それだけがいい。
毎日、毎日、湖雪は少しずつ綺麗な笑顔を俺に向けてくれるようになった。
今までを取り戻すみたいに。
時間をかけて。
ゆっくり。
自分にあんな仕打ちをした人間を、足を切り落としてまでそばに置いておこうとするのは、多分普通ではない。
俺の彼氏は、ちょっとおかしいのかもしれない。
それでも、湖雪がいい。
このまま、湖雪を愛していたい。
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