ちょっとおかしい僕のこと。

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恵まれた生まれだという自覚が、幼い頃からある。 食うに困ったことは無い。自国が戦争したことも無い。親から叩かれた記憶も無い。いじめを受けたことだって無い。 とにかく、環境にも周りにも恵まれた。 幼い頃から塾に行かせてもらい、楽器も買い与えられて習わせてもらい、辞めるも続けるも僕の意思を尊重されてきた。 欲しいものは適度に買い与えられ、欲しがりすぎれば優しく叱られてきた。 自分で言うのは憚られるが、器量にすら恵まれて生まれてきた。 両親から充分な愛を注がれて育った。 充分すぎるお金をかけられ育てられた。 ひとつだけ不自由があったとすれば、自分という人間の、中身の空っぽさだった。 好きな音楽はある。好きなテレビ番組も。 動物が好き。猫は特に好き。人と話すのも好き。 何かにのめり込んでしまうくらい、熱を注げるものは、なかったけど。 とにかく平坦だ。平凡だった。波が無い。 面白いくらい何も無い。 何の苦労もせず、全てに恵まれて育ってしまった。 この普通が、彼に壊されるまでは。
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