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初めて彼を見たのは、高校生の時だった。
この辺りでも一番偏差値の高い高校の学校祭。
賑やかな景色、華やかな校内。
自由な校風が売りであることも相まって、その日はいっそう盛り上がっていた。
実は僕はこの高校が第一志望だったのだけど、受験前どうしても当日点が足りそうになくて、志望校を直前で変えたのだった。
だから僕としてはこの学校祭は前から楽しみにしていて、高校の友達を連れて中々に遊び尽くしていた。
その日だった。その時だった。
一瞬で、僕の人生を壊してしまった。
正面の教室とは別で、玄関の後ろにあるドーム型の建物に入ってしまった時。
友達とはぐれてしまって、メッセージのやり取りをしながら慣れない校内を歩いていた時。
青みがかった色に照らされた廊下を歩いていた時。
向こうから歩いてきた黒髪の男子に、目を奪われた時。
窓から差し込んだ光が、その空間全てを薄い青色に染めていた。
揺れる黒髪に、光に照らされた横顔に、水晶のような瞳の奥底にじっとりと埋め込まれた闇に、心を奪われた時。
息を呑んだ。
その場に立ち止まってしまった。
その男子は、なんと、信じられないんだけど、僕を見た。
急に立ち止まった僕を不審に思ったのだろう。
どうかしましたか、と声をかけられてしまった。
あまりに儚くて綺麗で美しくて愛らしい顔と声に僕はもう、それはもう、ドキドキしてしまって、盛大にどもりながら友達とはぐれてしまって、と返事をした。
そうするとその男子は、そうですか大変ですね、と何とも当たり障りのない、悪く言えばただ冷たい反応をして普通に行ってしまった。
その甘いマスクと塩対応のギャップにすっかりやられてしまった僕は、人生で初めての恋を、呆気なく名前も知らない同性に捧げてしまった。
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