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第3話
八月も中旬に差し掛かり、少しずつ余命宣告が刻一刻と近づいていた。だがまだ猛暑は衰えを見せず、夏の終わりとは程遠かった。俺や彼女の体調に異変はなかった。
俺達は、蛍の舞踏会を気に入ってしまいあの後、何度もあの場所を訪れては彼女と夏のロマンを堪能していた。
この日も飽きることなく、蛍が舞ういつもの場所へ向かうと俺たちは気さくに蛍たちに
「今日もよろしくね」
とあいさつを交わす。蛍たちも返事の代わりに何度か明かりを明滅させてくれた。川のせせらぎが聞こえる静かな夜に蛍たちの演技が始まり見入ってしまった。何度見ても飽きない。
暫くすると、大きな爆音が辺りに響き渡った。俺は一瞬ビクッと身体を震わせると夜空を煌びやかに輝かせた。
「ママ花火だ!」
「本当きれいね」
夏祭りの帰りだろうか? りんご飴を持ちながら浴衣姿の親子は花火に見入っていた。俺と彼女も蛍と花火の競演に心を虜にされていた。
花火も終わり、すっかり元の静かな夜空に戻った時、なぜだか俺の心にぽっかりと穴が開いた気分になった。
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