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第2話 ぽちゃ子の恋
翌週午後、妹とカフェで落ち合った。席に座ったぽちゃ子は、少し疲れた顔をしていた。心配をして、「元気ないね? バイト、慣れないのかな?」などと言っても返事がなかった。珍しく、無言ぽちゃ子。
「バイトどうだったの?」
もう一度訊くと、
「あのね。すごくよかったんだ。すごく……」
と言いぽちゃ子は乙女の雰囲気を出した。私は察した。
「どんな方がいらしたの?」
「斎藤拓海さんっていう大学3年生の方がいてね。すごく丁寧に仕事を教えてくれて。仕事終わって、同じ方向だからって一緒に途中まで歩いてくれてさ。話が合いすぎるっていうか……。笑いのツボが一緒っていうのか……。気が合うっていうのかな?あそこまで合うってなかったから……。びっくりした!」
「ふふふ!そっかー」
妹が恋をした。初恋だ。毒舌ぽちゃ子は友人らの適当な付き合い方を見ては「恋なんて!」と言っていたのに。なんだか嬉しくなった。と同時に私自身の恋の始まりも思い出した。
遥と会った頃のドキドキ。あのときめきは色褪せない。
ぼうっとしているぽちゃ子の前に、メニューを広げ注文を促すと、迷うことなく烏龍茶を指差した。
「いつもなんとなく思っていたんだけど。太っちゃう!ってよく言うから……ダイエットしたいの?」
こくりと頷くぽちゃ子は、私の知っている可愛い妹の顔をしていた。姉としてのエネルギーが湧いた。妹を応援したい。恋の始め方なら、私はもう経験しているから……。
「ぽっちゃりも可愛いよ。少しずつ野菜中心の食事にして無理ないダイエットがいいよ。健康でないといけないから。肌綺麗なんだからチークとリップで十分可愛くなるよ。洋服のセンスはいいしさ!」
うん!っと頷いたぽちゃ子は、顔が真っ赤だった。
「飲み終えたら、美容院行こう! お姉ちゃんお金出すから!」
本当?と目をキラキラさせたぽちゃ子は、非常に倹約家でもある。でも、年に1度のチャリティなどには、びっくりするくらいの額を送金をしたりする。妹は、とてもいい子なのだ。とても。
すごい勢いで注文した黒烏龍茶を飲む妹ぽちゃ子は、恋の淡い輝きを発している。私は、ストレートティーを飲みながら、遥と距離を縮めたあの頃を思い出していた。
彼がショートヘアーがいいと聞きつけたら、髪の毛を切ってみたり。なるべく良い香りを身につけるようにしてみたり。「いい女のトーク術」っていう本を読んで勉強してみたり。そうして、やっと「好きです」と言ってもらえたときは、もう幸せの絶頂だった。幸福。そういうものを生まれて初めて味わったんだと思う。
「お姉ちゃん! 飲み終えました!」
「はいはい。待って!今、予約しちゃうから……」
スマホの上を指を滑らせ、一番近い美容室の予約をした。
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