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第3話 ニューぽちゃ子
予約をした美容院に向かう間、ぽちゃ子と拓海くんについて話した。
「で、どんな子なの?」
「うん。アタシと一緒でぽっちゃりなの。だけど目が大きくて、ハンサムというか可愛いんだ」
目を輝かせるぽちゃ子は、希望に溢れている。
「じゃあ、お仕事のたびに親しくなって、それからそのうちお仕事以外で合えるように、ちょっとずつ機会を伺う! 私もそうしたし……」
うん、とうなずく妹の二重あごは、あまり気にならなかった。拓海くんがぽっちゃりならば、女性のぽっちゃりに寛容である可能性は大きい。
「拓海くんの好きなタイプを、そのうち知れたらいいね」
「うん。まあ、職場の方ですからね。そういう話になるまでは時間が掛かりそうだけど……」
ぽちゃ子のワクワクウキウキを感じ取りながら、彼に抱かれた最初の日を思い出した。「もうこれで終わり。ジ・エンドでも構わない」なんて思い、無神論者なのに、「神様、ありがとう」と、朝日を見ながら感謝していたっけね。そういうことはここ半年ない。だからだろうか。逆に、本当にジ・エンドになっちゃうのかもしれないとも、ふと、思う。
◇
美容院のイスに座りながら、ぽちゃ子は熱心に美容師の男性と話し込み、髪型を決めてた。わはは!と笑いながら。
「やだー! 汗流れてきた。脂肪が燃焼中!すみませーん」
「あのう。タオルで拭きます?」
「すみませーん」
ぽちゃ子は自虐ネタもしっかり使いながら場を盛り上げる。それでも本当はずっと外見を気にしているみたいだ。いつだったか、「やっぱりどうせ世の中外見じゃん! 外見で判断する人間なんてクソ喰らえ。テメーだっていつかジジイババアになりんだボケ!」と、電車の中で大きな声で言うもんだから、ヒヤヒヤしたっけ。
そんなぽちゃ子が外見を本気でガーリーにしようとしている。微笑ましいと思った。誤解されないように、外見を整えるのは必須だと思う。少なくとも、私は拓海くんという子がぽちゃ子の良さを見つけることができるようなチャンスを、外見を整えることで作りたい。
◇
雑誌を見ながら待っていたら、ぽちゃ子が「おまたせー!」と明るい声を掛けてきた。見上げると、そこにはニューぽちゃ子。
肩につくくらいの髪の毛は、クルンと内巻きにされている。前髪は短めで、ぽちゃ子のキュートな目が一層魅力的に見えるようになっていた。残るは産毛。ヒゲともいうそれ。まだまだ磨かねば。
「可愛いですねー!」
「えっへへへー! いや、マジ久しぶりだよ美容院。高いじゃん!」
本当に、こういうところ。しーっと人差し指でそんなこと言っちゃだめを示してから、「だから私が出すからね」と言い立ち上がった。ぽちゃ子はまだ、鏡を見てニコニコとしている。
ぽちゃ子の良さや魅力をわかりやすくお届けしなくては……。私は支払いを済ませると「ドラッグストアに行きますよ。お姉さん奮発しますから」と誘った。
「マジか! サンキューです! マジカルミラクル掛けちゃおうぜ! ぽちゃ子にうっとりさせてやるさ!」
鼻息荒くそう言うぽちゃ子。それを笑って見ている美容師さんに、「すみませーん」と言いながら支払いを済ませた。数回美容室の方々にお辞儀をしながら、さっさと行ってしまったぽちゃ子を追う形で美容室を出た。
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