第5話 明るいぽちゃ子と

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第5話 明るいぽちゃ子と

 翌週。いつものカフェの席には、すでにぽちゃ子が。約束の時間より早く来ることなんて初めてだ。  席に座る。目の前に明るい妹の表情。ぷっくりとした唇がピンク色に輝き、チークは淡く桜色。髪の毛はくるんと内巻きになっている。ほんのり甘い匂いもする。 「ふふふ。綺麗なりましたね。恋の力はすごいですね!」 「そう? ねえ、そう?」  身を乗り出すようにして、嬉しそうにする妹のマシンガントークはここから止まらなかった。 「アタシ高校の時から男なんて!って思ってたよ。男友達多いでしょう? だから聞きたくないこと沢山聞かされてさ。いや、知らんがな!って言う感じだよね。あんたらの性癖聞きたくないよ!って。お姉ちゃんはそういうのないでしょう? 美人でスタイルいいんだから。あの人達、可愛いな、付き合いたいな、って思う女の子の前では隠す隠す。もう2重人格もいいところ。だからさ、男なんてって思うわけよね~。でもね。違うの。拓海さんって、私のことをちゃんと女の子だと思って接してくれるんですよ。レデイーファーストっていうんですか? 人生初体験です。お姉ちゃん!」 「よかったね。いい人そうだね。本当に」 相槌を打つと、嬉しそうにぽちゃ子は続けた。 「髪型、とっても似合うじゃん!って言ってくれたんだよね。キャラがいいねとも。エヘ! 可愛いねなんて言われたら鼻血ブッシューかもわからんわ。大学の男友達なんてさ、なんにも言わないよ。リップ付けても、チーク付けても全然! あいつら見てないんだよね。私をただのゴミ箱扱いしてるんだよ。女に振られたときだけ、ぽちゃ子~!話を聞いてくれよ!って泣きついて来るんだけどさ。本当、アタシ、ゴミ箱扱い!」 「ゴミ箱か……。ぽちゃ子、優しいからね!」  ブンブンとぽちゃこは首を振った。 「ダメダメ。もちろん話は聞くよ。だけど、ギブ&テイクですよ。課題助けてもらってるから聞いてるの! ただのゴミ箱にはなりません! 一方的にうまい具合に相手を自分のために使うって人格的におかしいだろう? 人権の問題だろうが。双方の与え合うエネルギー値を同じにするのが大事だと思うんだよね。だからボランティア的な恋も結婚もしたくないの!」  ドキリとした。もしかして最近ひどく寂しいのは、自分の価値や存在が大切にされていないと感じるのは、そのギブ&テイクをきちんとできてないからだろうか? なんだか急に焦点が合わなくなった。ぼうっとし始めた。 「お姉ちゃん? 大丈夫?」 私は、何事もないという素振りをした。 「うん。大丈夫。なんかお腹すいたなって」 「え? 珍しい! お昼食べなかったの?」 「今日は、適当にブランチをすましてしまって、変な時間にお腹が空いちゃった……」  無言でメニューをパラパラとめくる。 「お姉ちゃん、大丈夫?」 「え? うん……」  適当に返事をしながら、ぽちゃ子の何気ない一言――「大丈夫?」に感動している自分に気づいた。私は完全にぽちゃ子の言う、エネルギーの与え方ミスをしたのかもしれない。枯渇している。ありがとうに、ごめんねに。温かいハグに。もう、なんだか自分が何を考えているのかわからないくらいに。 「大丈夫? 遥さんとなんかあったの?」 「ううん。特にないよ。まあ、彼が忙しくてね。デートとかしてないかな……」 「ふーん。そっかー」  ぽちゃ子は、それからあまり話さなかった。気を遣ったんだろう。妹は、優しい良い子だ。    
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