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【イツマデモ】
2020年4月
警察『えー、こちら山水沼にて高齢の女性の水死体を発見。近所に住む柳川セツ子さんが家族から捜索願が出されていたので至急確認願います』
2020年7月
私の名前は里美、女子大の陸上の選手をしている大学3年生だ。3ヶ月前に陸上の試合中に、知り合いの応援で駆けつけていた人形造形師のオサムに一目惚れされ、君の人形の型を作らせて欲しいと告白されて交際している。
初めて話したときは全身黒いスーツを着ていて、不気味だったけど、少し話をしてみると凄く気さくな人ですぐに打ち解けた。
オサム『お疲れー!里美』
里美『オサム!!もうヘトヘト。来週の夏の大会のアンカーだからプレッシャーに押しつぶされそう』
オサム『里美はエースだからってみんなの期待を背負い過ぎなんだよ。疲れちゃうじゃん。』
里美『だね。ここ数ヶ月、いろんな事あって疲れちゃった。でも、オサムと出逢えたからなんとかやっていけてるよ』
オサム『あのストーカー男からはその後、跡をつけられたりしてないかい⁇』
里美『うん。オサムのおかげでその後、一切見なくなったよ』
私は半年ほど前から長髪メガネの男にストーカー被害に遭っていた。何をされるわけでもなく物陰から常に私を見つめていた。そんな精神的ストレスから解放してくれたのがこのオサム。私の練習中にストーカーと直接話をしてくれて、その後ストーカーは一切現れることはなくなり本当に感謝していた。
オサム『それじゃ良かった。そんな里美に朗報だよー!3ヶ月も製作に費やしたけどようやく里美の人形が完成したんだ。もう夜遅くなっちゃったけど見に来ない⁇』
里美『待ってましたー!行く行く』
里美はオサムと共に夜道を歩き、オサムの家に向かっていた。
オサム『ゴメン、トイレ行きたくなったからそこの公衆トイレに寄って行くね!』
里美『え!?どうしてもここじゃないとダメ⁇』
そこは3ヶ月前に老婆が水死体で見つかった山水沼の公衆トイレだった。
オサムはピタッと足を止めた。
オサム『......よく使ってたじゃないか。ここのトイレ』
里美『え!?』
オサム『俺は里美のことが好きで好きでたまらなかった。でも奥手でどうしても声をかけることができなくて、気づいたらストーカーみたいになってた。』
里美『ちょっと、何言ってるの、ねぇ。』
オサム『そうだ。今日ちょうどウィッグを持ってきてたんだ』
オサムは長髪のウィッグをつけてメガネをかけた。
里美『あ、あんた、まさかストーカー男』
里美は一歩後ろに下がった。するとドンと何かにぶつかった。振り向くとそこには自分と全く同じ服を着た等身大の自分のマネキン人形が腕をぶらりぶらり揺らしながら立っていた。
里美『きゃー!!』
オサム『里美は今日この世から消えてセツ婆ちゃんが里美になるからね』
里美『は!?どういうことよ』
オサム『これは報いだ。3ヶ月前のこと忘れたとは言わせないよ。俺の大好きだった婆ちゃんを殺したお前を俺は許さない』
2020年4月:オサム
オサム母『オサム、お婆ちゃんが夕方、お墓参りに行くって家を出たっきり戻ってこないのよ。最近物忘れも酷くなってきてたし心配だから探しに行ってきて。私も心当たり探してみるから』
俺は必死で辺りを探したが、どこにも見当たらなかった。途方に暮れながらまだ探していない山水沼にたどり着いた時向こう岸で里美が誰かを罵倒してた。そして次の瞬間、ドボンと大きな音が聞こえて続けざまに里美の『ざまぁ』という声が聞こえた。
向こう岸まで走って3分弱。たどり着いた時には婆ちゃんは水の中に沈んでいた。
2020年4月:里美
山水沼
私はエースでアンカーというプレッシャーとストーカー被害に押しつぶされそうになりながら、夜中に必死で山水沼の周りを走ってトレーニングしていた。みんな気楽に練習してるのになんで私ばっかりこんなに頑張らなくちゃいけないのよ!やり場のない怒りを抱きながら走っているとベンチに1人の老婆が座っていた。私は気にせずに横を通ろうとすると老婆は
『あのーお姉ちゃん。わたしのうちはどこですか?家に帰りたいの』と言われトレーニングウェアの袖をいきなり引っ張られた。
不完全燃焼だった不快な気持ちに突然の無礼な行為。お気に入りのウェアはビリッと破けた。私の理性がプツンと切れたのを感じた。そして全ての怒りをこの老婆にぶつけた。
里美『何すんだよ!!クソババア』
思いっきり老婆を沼に突き落とした。
老婆はあっぷあっぷして助けを求めていたが私は見下しながら『ざまぁ』と投げ捨ててその場を立ち去った。
2020年現在
オサム『葬式の時に未練があって成仏できていない婆ちゃんの魂がさまよっているのを感じた。そんな時だよ、たまたま近くの陸上競技場から、『地区大会優勝、高橋里美さんおめでとう』というアナウンスが聞こえてきたのは。』
里美『......』
オサム『俺はその瞬間、何かに目覚め、礼服のまま、すぐに髪をバッサリと切りに美容室に行き、メガネを外して全くの別人として里美と接触した。案の定お前は気づかないどころか俺のアプローチを快く受け入れてくれた』
里美『全て芝居だったのね!』
オサム『ああ、俺がお前に近づいた理由は里美の精巧な人形を作ること。それにはすぐそばで観察しなければ無理だからな。苦痛の3ヶ月だったよ。悪魔のような性悪女の彼氏をしないといけなかったんだからな』
里美『さっきから黙って話を聞いてりゃ随分なこと言ってるけど証拠はあるの⁇あるはずないわよね!?あれは事故だったんだもん』
オサム『証拠はお前の後ろにあるだろう』
里美『ハァ!?』
振り返るとマネキンの目がギョロっと動き私を見つめた。そして
マネキン『ワタシハ、オマエニコロサレタ。オマエガニクイ』
まるでマネキンに老婆の魂が宿ったような姿に私は恐怖のあまり体が動かなくなった。
オサム『人形にはね、人の魂が宿るんだよ。そのために里美の人形を怨念を込めて作ったんだ。成仏できずにいたセツ婆ちゃんの魂を入れるためにね』
里美『あ、お願い許して』
オサム『お前は人の皮をかぶった悪魔だ。安心しな。退部届は出しておいたから失踪したと言うことで違和感ないからさ』
マネキンはカクカクと動きながら里美を沼の方へと押しやった。
里美『私が悪かったから。警察に自首するから』
マネキン『サ トミ イッショニ ハイリマショ』
里美はマネキンに覆い被されるような形で沼に沈められた。
しばらくしてブクブクという気泡が消え、マネキンだけが沼から顔を出した。マネキンは陸へ這いつくばり
マネキン『ワタシハサトミ、ワタシハサトミワタシハサトミ』と連呼した。
オサム『俺が愛した里美の外見に婆ちゃんの魂が入ったらもう理想の女性じゃないか。ハハハハハハハ』
2020年8月
女子大生『ねぇ聞いた!陸上部のエースだった里美先輩、大会前に退部して失踪したらしいよ。なんでも男と一緒にどこかで暮らしてるんだって』
オサム邸
オサム『......』
オサムは笑顔のまま息絶えていた。
傍にマネキンが寄り添っていた
マネキン『イツマデモ、サトミハ オサムトイッショ』
完
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