10人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
悪魔の囁き
宙を飛ぶ。世界がぐるりと反転。さっき告白を成功させ、世界で一番幸せだと思ったというのに俺は出来たての彼女が叫ぶ中、車に跳ねられた。人通りも少ない道。車道に打ち付けられた俺の呼吸はヒューヒューと鳴っている。
彼女になったばかりの由貴は必死にスマホでどこかに電話をかけている。空は憎らしいほどに青い。彼女が出来たことは俺の生涯で最大の幸福だろう。俺はここで終わる。覚悟した。
「諦めるのはまだ早いんじゃないか?」
目を閉じた俺に低音の男性の声が届く。死に際とは幻聴が聞こえるものなのだろうか。
「助けてあげて!!できるんでしょ!?」
必死な由貴の声。誰かいるのか?うっすらと目を開ける。
そこにいたのは尖った耳に黒い羽根と黒い尻尾にギョロギョロした大きな目。ああ悪魔だと俺は息も絶え絶えにのんきなことを考えていた。
「俺は願いを三つまで叶える。だが、三つ願いを叶えたら魂はもらう。いいか?」
冷や汗。俺を生かすために由貴が死ぬなんて嫌だ。
「分かった!」
由貴は即答した。俺は必死で唇を動かす。
「だ……め……」
「なんで!?豊、死んじゃうんだよ!?命に代えられないじゃん!?」
「だ……め……」
「嫌!嫌だよ!!」
俺らの言い合いの中、悪魔は一つの提案をしてくる。
「まぁ願いを聞かなくても生き抜く方法はあるけどな。やるか?」
俺も由貴も否定はしない。他にあるなら、それを選ぶ。由貴の魂が取られるのも俺が死ぬのも回避できるのならば、選ぶしかない。
「豊、お前は今日から悪魔として生きるんだ。人の願いを叶えて魂を奪うんだ。頑張れよ」
悪魔はそう言い放ってから空に飛んでいく。その最中、俺は起き上がれるまでに傷も痛みも消えていく。
「由貴……」
俺は立ち上がり由貴を抱きしめた。
「豊、良かった……」
この日の出来事は俺と由貴しか知らない話だった。
最初のコメントを投稿しよう!