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それは突然の彼からの誘いだった...
アナはただ驚いた表情で彼を見ることしかできない。
「..嬉しいけど私は行けない」
彼女は眉をひそめながら小さく笑みを浮かべ、ミッチの頬を撫でた。
「貴方は貴方の幸せを見つけて...。メキシコに行く前にミッチに会えて本当に良かった」
「..僕もだよ、きっと神様が僕達を巡り合わせてくれたんだ」
ミッチは力なく微笑むと、アナを強く抱きしめた...
これでよかったのだと彼女はこうして再会出来たことだけで十分幸せだと感じた。
彼には向こうで幸せになって欲しかった...
だからサミーの事も話さなかったし、自分もミッチも過去に囚われずにこれで前に進んでいける気がしたのだ。
夕方の帰り際、空港の駐車場に停めてあるアナの車まで送って貰った。
「..ミッチ、向こうでも元気でね」
「ああ、君も元気で...」
二人は少しの間見つめ合うと、最後にハグを交わした...
「さよなら...」
彼の温もり、香り、全てを身体と頭に焼き付けてアナはミッチ・スティーヴンズと別れた。
ーーー
それから数日が経った。
この日、アナは仕事が休みで自宅のアパートにはアレックスが遊びに来ていた。
彼はリビングのソファーでサミーをあやしている。
「はい、コーヒー」
アナはテーブルに淹れたてのホットコーヒーを置くと、アレックスからサミーを抱きかかえた。
「サミーの顔、どんどんスティーヴンズ教授に似てきたね」
彼はコーヒーを啜ると、笑顔でそう話した。
「..ねぇアレックス。実はねこの間、教授と空港で再会したの。私の働いてるラウンジに彼が偶然やって来て」
「本当に!?」
アレックスは驚いた表情を浮かべる。
アナは頷くと、ミッチがメキシコの大学へ赴任する事や最後に彼と愛を交わしたことを話した...
「どうして、教授は一緒に来ないかって誘ってくれたんだろ?お互い好きなら何も問題はないだろ...それに何よりどうしてサミーのことを言わなかったんだ?」
「..私は妊娠した事を彼に話さずに勝手に産んだの...」
アナは腕の中でスヤスヤと眠っている我が子を見つめながら話した。
そして今度はアレックスを見ると、
「私は今のままで十分幸せだし、ミッチにはきっと向こうで良い出会いがあるわ」
と、笑顔で話した。
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