悪夢の夏

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 暑いのは嫌いではないが、疲れないわけでは無い。  特にマスクをつけて炎天下を歩くのは急激に体力を消耗する。  頼恵はいい加減へとへとだった。  マイバッグの中身が何倍も重たくなったような気すらしていた。  そのせいか、少し周囲への注意が疎かになっていた。  気が付いた時には青年とぶつかっていた。 「きゃっ……」 「ああっ、すみません!! ぼーっとしてて」  そう言った青年は、ハッとするほど美しかった。  少し金髪で青い目。外人の様な見た目だが、その口から出たのは流暢な日本語だった。 「大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」  美しい顔が目の前まで迫ってきて、思わず頼恵は言葉を失った。  かくかくと首を縦に振る。  それを青年は大丈夫という返答だと解釈したのか、ホッと一つ息を吐いた。 「ほんとにすみませんでした……。ちょっと探し物をしていたので」 「い……いえっ……。こちらこそ……」 「これぐらいの白い長方形の箱で……ボタンがいくつか付いているんですが」  そう言って、青年が示したのは、長い辺が二十センチぐらいのサイズだった。  見た記憶もない頼恵は、首を左右に振った。 「そうですか……。すみませんでした。それでは、失礼します」  青年はぺこりと一つ頭を下げ、頼恵が来た道の方へと歩き去っていった。  遠ざかりながらも、彼は地面の方をきょろきょろと見回しては小さく肩を落としたりしているのが見えた。 「探し物……。何だったのかしら」  頼恵は緊張してロクに話が出来なかったことを悔やんだ。
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