悪夢の夏

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 玄関を開けると、それだけでもうやや涼しかった。  家の中に入り、鍵を閉め、速足でキッチンへと移動する。リビングから流れ込んでくる冷気のおかげで、台所もいい加減寒かった。買った物を食卓に置き、椅子に掛けておいたパーカーを慌てて羽織る。袖に腕を通しながら、なんて馬鹿な事をしているんだろうとため息を吐かずにはいられない。  キッチンからリビングを覗いてみれば、夫は半袖に短パン姿でノートパソコンの画面を見ていた。仕事をしているらしいのは分かったが、書斎にでも行ってほしいと思わずにはいられない。だが、リビングのエアコンが最も強力なので、頼恵の願いが通じたことは一度もなかった。  寒さに耐えつつ買ってきた物を冷蔵庫にしまう。  一刻も早くこの部屋から移動したかった。 「おうい、帰ったのか?」 「え、ええ……」  突然声をかけられ、頼恵は驚いた。 「ただいまぐらい言えよ」 「あなた、お仕事しているみたいだったから……」 「まあ、そうだけど。でも、突然キッチンからごそごそと音がしたら驚くよ」 「ごめんなさい……」 「分かりゃいいさ。すまないけどお茶くれるか? 冷たい奴な。氷入れて」 「……はい」  部屋から逃げ出す事さえ封じられて、頼恵は軽い絶望を感じた。  お茶ぐらい自分で淹れればいいのに……。  冷蔵庫に麦茶は作ってある。  氷だって冷凍庫の製氷箱に出来ているのだ。  そう思いつつ、動いてしまう自分が嫌だった。
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