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氷を入れたグラスに麦茶を注ぐと、パキパキッと氷の割れる音がした。
それだけで体が冷えるような気がした。
ふと目に入ったのは拾った箱だった。
画面らしき部分の下には二つのボタンがあった。
一つは「+」と書かれ、もう一つは「-」と書かれていた。
それ以外に、温、冷、お任せなどいくつかボタンがある。
「これって……エアコンのリモコンなのかしら?」
口にしながら、そんなわけないと頭の中で否定している自分もいた。もしこれがエアコンのリモコンならば、どうして彼はそんなものを外に持ち出したのだろう。家の中でこそ真価を発揮するのがエアコンのリモコンだ。
「おーい、お茶まだかー?」
「すぐに持って行きます」
返事をしながらイライラが募っていくのが感じられた。
頼恵はそっとリビングを覗いてみた。
夫はキーボードに指を走らせている。
その向こう側にある壁の天井際に、大型のエアコンが一台設置されている。二十畳の広さをくまなく冷やしてくれる奴だ。リモコンは彼のすぐそばに置かれている。あれが急に壊れたら、さぞかしいい気味だろうに。
あるいはこっそり設定温度を上げる事が出来たら……。
本当に何となく、頼恵はそのエアコンに拾った箱を向けて「+」と書かれたボタンを押した。
ピッと小さな音が聞こえた。
「え?」
驚いてその箱を見ると、今まで何も書かれていなかった画面らしき部分に「+1」と表示されていた。
もう一度押してみると、またピッと音がして今度は「+2」と表示された。
「効いたのかしら……」
体感では何も分からない。
箱とエアコンを何度も交互に見ていると、再び夫の声が飛んできた。
「おーい、何してるんだ?」
「あ、はいはい」
お茶の事を思い出し、頼恵は慌ててグラスをもってリビングへ移動した。
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