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突き出しのキャベツを皮切りに運ばれてくる地鶏のコースを、私達はどんどん平らげていった。松本さんはかなりの健啖家のようだ。
部署は違えど同じ会社なので話も弾んだ。あの課長がどうした、あのクライアントがこうしたと話は尽きなかった。よく喋る斎藤さんとは対照的に、松本さんはにこやかに相槌を打ちながらは聞き役に徹していた。絢子が「ビールのお代わりいる人!」とたずねて、奇しくも四人全員「はーい!」と手を上げたその時だった。松本さんがオーダーをとりに来た女の子に声をかけた。
「氷を別に持って来て頂けますか?」
しばらくしてビールと氷が運ばれてくると、松本さんは少しビールに口を付けかさを減らすと、いきなり氷を数個、ビールの中に投入した。そしてそのままぐっと一気にジョッキの半分を飲み干した。
「おい、松本、また邪道な飲み方して。薄まるやろ? 折角の美味しいビールが。もったいないもったいない」
斉藤さんがおちょくった。
「先輩、俺、この飲み方が好きなんです。二杯目はこれで飲ませてくださいよ」
顔の前で手を合わせた。
「そうよ、ビールの飲み方までああだこうだ言って、それってパワハラだからね!」と絢子が加担した。
「え!? そんなパワハラって。麻美ちゃんは? 氷なんておかしい思うやろ?」
突然こちらに話を振られた。
「ヨーロッパではビールは冷やさず飲まれていますし、メキシコではライムを搾ったりお塩を振ったりもします。色んな飲み方があっていいと思います」
わざと真面目な顔をして、思ったままを口にした。
「麻美ちゃんまで殺生な。大人しそうやのに一番きついなぁ!」
自然と四人で顔を見合わせ、涙が出るほど大笑いした。こんなに笑ったのはどれくらいぶりだろう?
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