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私とソレは夜空を歩いた。
ベランダの手すりをふみ越え、部屋のカーテンの膨らみよりも高く浮かんでいく。
向かいの家の屋根をかすめ、電線で綱渡りの真似をしながら、もっと高く飛んでいく。
薄明るい曇天の灰色に、一点の曇りもない夜空の黒と晴れた空の青がぽつんと二つ。
雨雲の中に入ると、雨は四方から降ってくる。
私は傘を差していたが、濡れ鼠もいいところだった。
「アナタが風邪を引く前にもどりましょうか」
ソレが言った。
けれど私はこの不可思議な散歩の記念に夏風邪の一つでも引いておきたい気分だった。諫める声は雷のようだったが、私はちっとも怖くなかった。
ソレが、笑っているのだとわかったからだ。
私達は雲の上に出た。
雲海が月明かりに照らされて、波打つような影ができている。
頭上には本当の夜空と星が見える。
熱のこもる雲の下とはちがって、ここはどうも薄ら寒い。
ひとつ、私はくしゃみをした。
あの日のように消えてしまうのではないかと思ったが、そんなことはなかった。
私達は少しの間、何も言わずに空の中に浮かんでいた。
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