消えない、消さない

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 だけど、非情にもその日は訪れた。  ふたりで行った花火大会。  はぐれないようにと繋いだ手はいつもよりしっとりと汗ばんでいた。千紘の細い声は、人混みの中ではなかなか捕まえられなくて、喧騒から隠れるように小さな神社に逃げ込んだ。  石段に並んで座り、イチゴ味のかき氷を食べながら、夜空に咲く花を見上げた。不意に、千紘がわたしのほうを見て何かを言った。頭上から降ってくる轟音で、その声は掻き消される。いつもより鮮やかな赤に染まった舌に魅了され、いとも簡単にその封印は解かれた。  千紘の唇も舌もひんやりと冷たかった。  シロップの味がして、甘くて、もっと欲しくて、舌を絡めた。  千紘の体が小さく震えた。  これ以上はいけないと思うのに、止められなかった。  ずっと溺れていたかった。  強く胸を突かれて、これは夢じゃないと思い出した。  千紘の顔はくしゃくしゃに歪んで、瞳には軽蔑の色が浮かんでいた。  千紘が零す透明の涙を赤や緑の光が彩って、すごく綺麗だった。 ◇◇◇  わたしは今でも千紘の夢を見る。  脳裏に焼き付いたあの泣き顔をただ眺めるだけ。触れることはできなくて、それは呪いみたいだと思った。いや、呪いなのだろう。  だから、この想いも、胸の痛みも、消えないし、消さない。  きっと。ずっと。
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