消えない、消さない

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 ある夜、千紘の夢を見た。やたらとリアルなその夢は、ただわたしと千紘がキスしているだけのもの。桜色の唇はとても柔らかくて、甘くて、息継ぎも忘れて溺れるようにその感触を、味を、堪能した。  目が覚めたとき、親友である千紘に欲情した自分に罪悪感を覚えた。だけど、それ以上に興奮していた。それほどまでにその夢は甘美なものだった。きっとこの夢がわたしを狂わせたのだ。わたしは千紘の隣で、その唇に触れ、その味を確かめることばかり考えるようになった。  千紘はそんなわたしに気づくことなく、純粋無垢な笑顔を向けてくれていた。くだらない妄想ばかり繰り返しているうちに、わたしは本物に触れたいと願うようになってしまった。けれど、この想いを伝えてしまうことで、千紘の笑顔が二度とわたしに向けられなくなることのほうが怖かった。だからわたしは、その想いを心の奥底に沈めて、何重もの鍵をかけておいたのだ。
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