幻の花火

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「それでは、現在離れ離れの友に。かんぱーい」 『カンパーイ!』  夏の夜、金曜日。俺達はパソコンの前に陣取り、オンライン呑み会に興じている。  今年は感染症対策でろくに里帰りも出来ず、かと言ってGoToキャンペーンに乗っかって旅行に行く気にもならず、何よりも暑くてたまらないので家にいるしかない。  だから、故郷を初めとした様々なところにいる友人達と示し合わせ、こうやって時々オンライン呑み会をしているのだ。  めいめいで酒とつまみを持ち寄り、くだらない話に興じる。ビール、チューハイ、ハイボール、レモンサワーと、飲む物にも皆の好みが出ているし、つまみもコンビニで買ったような乾き物から缶詰、自分で腕をふるった一品料理まで、様々だ。 「それにしてもさ、今年はなーんかつまんねえ夏だよな」 「そうだな。夏のイベント、ほとんど中止とか自粛とかだもんな」 「夏祭りも盆踊りも花火大会も、なんもねえわ」 「うちもそうだよ。せっかく彼女の浴衣姿、楽しみにしてたのに」 「え? おまえ、彼女いたっけ?」 「……いや、まあ、これから告白しようと思ってたんだけど……」  今日集まったのは大学時代の友人達で、地元も現在住んでいる場所もバラバラだ。俺と同郷の者は一人しかいない。それが一同に会することが出来るのは、ネットが発達したおかげだ。 「……花火と言えば、さ」  その言葉がこぼれ出たのは、酔いが回りかけていたからかも知れない。 「俺、『幻の花火』を聞いたことがあるんだ」 「幻の花火?」 「『聞いた』って何だよ」  皆はさっそく食いついて来た。口に出してしまったからには仕方ない。俺は話し始めた。
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