13人が本棚に入れています
本棚に追加
「それでは、現在離れ離れの友に。かんぱーい」
『カンパーイ!』
夏の夜、金曜日。俺達はパソコンの前に陣取り、オンライン呑み会に興じている。
今年は感染症対策でろくに里帰りも出来ず、かと言ってGoToキャンペーンに乗っかって旅行に行く気にもならず、何よりも暑くてたまらないので家にいるしかない。
だから、故郷を初めとした様々なところにいる友人達と示し合わせ、こうやって時々オンライン呑み会をしているのだ。
めいめいで酒とつまみを持ち寄り、くだらない話に興じる。ビール、チューハイ、ハイボール、レモンサワーと、飲む物にも皆の好みが出ているし、つまみもコンビニで買ったような乾き物から缶詰、自分で腕をふるった一品料理まで、様々だ。
「それにしてもさ、今年はなーんかつまんねえ夏だよな」
「そうだな。夏のイベント、ほとんど中止とか自粛とかだもんな」
「夏祭りも盆踊りも花火大会も、なんもねえわ」
「うちもそうだよ。せっかく彼女の浴衣姿、楽しみにしてたのに」
「え? おまえ、彼女いたっけ?」
「……いや、まあ、これから告白しようと思ってたんだけど……」
今日集まったのは大学時代の友人達で、地元も現在住んでいる場所もバラバラだ。俺と同郷の者は一人しかいない。それが一同に会することが出来るのは、ネットが発達したおかげだ。
「……花火と言えば、さ」
その言葉がこぼれ出たのは、酔いが回りかけていたからかも知れない。
「俺、『幻の花火』を聞いたことがあるんだ」
「幻の花火?」
「『聞いた』って何だよ」
皆はさっそく食いついて来た。口に出してしまったからには仕方ない。俺は話し始めた。
最初のコメントを投稿しよう!