幻の花火

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「ふーん……」 「なるほどなあ」  友人達の反応は様々だった。ちょっと微妙な顔をしている者、興味深そうにしている者。とりあえず飲んでいる者。 「光や火花は見えなかったんだよな。音だけ?」 「音だけの花火ってなかったっけ?」 「ああ、運動会とか行事がある時に鳴らすような奴」 「そんなもん夜に上げてどうすんだよ」 「お盆の最終日だし、送り火代わりとか」 「そんな送り火ねーよ」  ちなみに、音だけの号砲花火であっても煙くらいは立つはずだが、煙も見えなかったように思う。  めいめい勝手なことを言っている友人達の中で、一人だけが考え込むような表情をしているのに俺は気づいた。この中でただ一人同郷の友人、木野だ。 「どうした、木野?」 「……おまえの家って、確か坂根町だったよな? 隣町と言えば、衣着町か」 「あ、ああ、そうだよ」 「その夜は早く寝たのか?」 「ああ。次の日には、早いうちに下宿先に帰らなきゃならなかったからな」 「なるほど。新聞は……見ないか、おまえは。その様子じゃテレビのニュースも見てないな」  思わせぶりなことを言う。 「何なんだよ、木野。はっきり言えよ」  木野はスマホを検索し、ニュースサイトの画面を出した。 「おまえがその『幻の花火』の音を聞いたのとちょうど同じ頃に、衣着町で発砲事件が起こってる」  俺も、他のメンバーも、それぞれ検索してそのニュースを見つけ出した。見つけられなかった者には、記事のスクリーンショットを送る。 「隣県とはいえ、距離としては遠くはない──というかむしろ近い。人通りのない、静かな住宅街だから、多少遠くても銃声は聞こえる」  あれは……銃声? 花火ではなく? 「銃声も花火の音も要するに火薬の破裂音だからな。銃の音なんて、日本に住んでればそんなに聞く機会なんてないし、花火の音だと思ってもおかしくない」 「でも、日本で発砲事件なんて……」 「ニュースの続報によると、犯人はヤクザと付き合いのある男みたいだな。DVが原因で自分の元から逃げ出した妻を、わざわざ二年間も追っかけて来て撃ったと思われる。ストーカー的な性質もあるのかも知れない」  木野は画面越しにまっすぐ俺を見た。 「厄介なことに、この犯人、まだ捕まっていない。……おまえ、この話、SNSとかで言いふらしてないよな?」  俺は、検索で出て来た容疑者の写真から目を離せないでいた。この顔、あの時ぶつかりそうになった他県ナンバーの車を運転していた奴に似ている気がする。  そういえば前にこいつに言われた。「おまえのSNS投稿、時々変に無防備なことがあるんだよな」と。……そして、俺はこの話を、前にSNSに上げたことがある……。  自分の元から逃げた妻を二年かけて探し出して撃った、執念深い男。そして、ひょっとしたら、俺が唯一の目撃者かも知れない。  どこかでそいつが、俺のSNSを見つけたとしたら? SNSの投稿や写真から、俺の居場所を探そうとしてたら?  ピンポーン。  その時、玄関のチャイムが鳴る音がした。
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