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「ほっほ! 吉井のハル様ですな? エブリスタ様やモノガタリー様の撒き餌に寄ってきましたよ、なかなか美味なモノをお作りで」
「あ、SNSの」
「はい、それはもう、この方なら共におれば絶対美味なるモノにありつける。確信いたしまして、こうして参上したのですよ」
こんなよくわからん生き物がどっから参上くださったのか知らんが、ペンネームや活動中のSNSの名前を知っていたことから、まァ警戒しなくていいか、と、水深は判断した。
なにより、こいつ、カーネル・バンダースのとてもとても落ち着いた声音としゃべり方がそうさせた。
「『おやつ読鑑』に『おやつおすそわけ』、両方ともじつに美味! よろしいですなァ」
カーネル・バンダースは恋する乙女のようにうっとり両手をねじりしなだれる。
顔にも毛がはえているためあまりわからないが、そのほっぺただってきっと乙女なピンク色に違いない。
ちら、と、でっかいふたつの目玉が時計を見やる。
六時。
夜の。
水深の家では、そろそろ夕食の時間だ。
カーネル・バンダースはしずしずと水深に歩み寄り手をひいた。
「ささ、夕餉に参りましょう。母殿の手作りハンバーグ。じつに楽しみですとも!」
「あんたの分あるかな?」
水深がつぶやくとカーネル・バンダースは疑問符を浮かべてふりかえったが、食卓についてみるときちんと彼(?)の分も用意されていた。
「む、なんと!」
いただきますの手をあわせ、ひとくち味わうなりカーネル・バンダースは目を輝かせた。
「じつにうまい! おお、想像の斜め上を行っておりますぞ母殿!」
「あら、嬉しい。今日のはね、あなたのことも考えてソースもちょっと凝ってみたの」
「しあわせにございます」
「カーネルさん、イケる口かい?」
父親が差しだしたビールのグラスを、カーネル・バンダースは深く頭をたれ受け取り、すい、と、呑んだ。
水深も今夜は機嫌がよくって、とっときのハーブのリキュールをロックで硝子コップの中かたむけていた。
なんて楽しい夕食のいっときだったのだろう。
両親もじつは居た弟も、水深の一家はその晩、満足して良い夜をすごせた。
しかし、水深の部屋、ベッド脇のお客布団で静かに呼吸するカーネル・バンダースのおだやかな寝顔をながめ、水深はもういちどこう思った。
えーと、こいつホントに、どっから来たんだろう?
やっぱりまたほんのちょっと気になっても、夕餉の席を思いだすと楽しいばかりで、次の瞬間水深は、まァいいか、と寝返りをうち眠剤の眠りに落ちた。
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