ハイリハイリフレハイリホー

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ハイリハイリフレハイリホー

 夜は良い。  と、思う。  空気がなめらかで、良い感じにテンパリングしたチョコレートのマットな質感がぴったりで、口に含んだらほろ苦く溶けそうな、あの、菓子。  水深(すいみ)は夕暮れの窓辺でぼんやり外を見ていた。  そんなことをなんとなく考えながら。  ここいらは静かな住宅街だ。  宵がてふてふと訪れる音に耳をかたむけ、しばし、一日の余韻に浸った。  あれ?  ちょっと違和感。  何かが聞こえた。  いつもとは違う、何か。 「え?」  それはたしかに認識するなら、こんな。 ♪ハイリハイリフレハイリホー♪  歌だ。  もういちど。  水深は背後に気配を感じふりかえった。 「え?」  なんかが、居た。  薄暮に染まる部屋の中央、ロアルド・ダールの童話の挿絵みたいな姿形のなにかが。  全体的に黒く、もじゃもじゃしている。  もさもさかもしれない。  その全身を覆う毛並みには、入念に手入れされていることがわかるツヤがあった。  それで、馬みたいな尻尾がはえてて、体高は大人の胸あたり、手足は棒のように細く長く、先っちょは手も足も指のように枝分かれしている。  シルクハットを持った手を胸に、ステッキを持ったもう片方の手を優雅にのばし、お辞儀をしていて、下がる頭にはとんがってちょっと長い猫のそれと云った耳。 「はじめまして、わたくし、バンダース・ナッチと申します」  水深に向けて上げられた顔には、まん丸い愛嬌のあるデカい目とコアラみたいな鼻があった。  ほー、ユニークユニーク。  しかし、もしか中世の西洋の国に居たら、悪魔と認定されぶっ殺されそうなヤツだ。  そうして水深は現代人だし東洋人だが、いきなり自室に現れた何かに驚き、反射的にかたわらのスマホを手にした。 「やァ、おまわりさんは呼ばないでくださいね」  とりあえずロックははずさなかった。 「今宵はハンバーグですなァ、ご相伴にあずかりたく参上いたしました。くりかえしますがわたくし、バンダース・ナッチと申す者ですよ。カーネル・バンダースとお呼びくださいな」 「パーティー・バーレル?」
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