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プロローグ
物心ついたときから、なにひとつ不自由なんてしたことなかった。
上流家庭に生まれたわたしは、公務員である厳格な父と誰もが目を奪われるであろう美しい母が自慢だった。
見た目はそれほどでもないけれど、おっとりと優しい妹思いの姉。
妹のミホだけは馬があわないけれど、なんとなか三姉妹バランスよくやれてるのは協調性のある姉のおかげ。
わたしは、三姉妹の中で一番母親に似ている。
美人で、愛嬌が良くて、器用で、誰からも好かれていて――道行く誰もが振り返るほどの美貌の持ち主、それがわたしの母。
中学生にもなると、わたしも母と同じ道を生きているような気がする。
学校のどこにいても、注目の的。
同級生も下級生も、ちょっぴり素敵な野球部の先輩も、わたしを見ているわ。
―――男なんて、ちょろい。
いつしか悪魔の囁きが聞こえるようになった。それはもう1人の私の心の声だった―――。
ある日、母が亡くなった。
病気だった。
死に顔まで美しすぎて、不謹慎ながら母の死に化粧にうっとりした。
中学生のわたしから母親を奪った神様を許さない。
そんな恨みの感情も、あの言葉を思い出したら妙に納得している自分がいたわ。
「美人薄命、って本当だったんだわ…」
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