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回想-3-
「ヨシちゃん、わたし働きに出たい。ダメかな?」
急に外に働きに出たいと言い出したミエコ。メグミが保育園に通いだしたタイミングでそんなことを言い出したのかと思いきや、ミエコが「働きに出たい場所」は自分の母親と同じ職業だった。
「ホステス?…夜の仕事なんかやめろ」
「お願い、ヨシちゃん。手っ取り早く稼ぎたいの。ヨシちゃんとお義母さんに恩返しがしたいから…」
どうしても水商売に就きたいと、言うことを聞きやしない。ミエコはこう見えて頑固だ。
「わかった。ひとつ言っておくがな、水商売は甘い世界じゃないぞ。お前は母親だ。娘のメグミのために働くんだ」
ミエコは何度も「ヨシちゃんありがとう!」と頭を下げた。
ミエコは社会経験がない。学歴もない。
水商売は甘い世界じゃないが、条件なしに働けるのは水商売が手っ取り早いというのは
否定はできない。
早速ミエコは水商売に就いた。
メグミは母さんが面倒を見てくれた。
俺はミエコの送り迎えを担当した。
母親とはいえミエコはまだ19の田舎娘だ。純粋で騙されやすいタイプだから、俺が守ってやらなければならない。
ミエコは「お店が楽しいの!」と笑う。
女同士の戦場でストレスなく働けているらしい。意外といえば意外だが、ミエコの人柄をわかってくれる同僚がいるのだな、俺は勝手にそう思って安心していた。
だが、ミエコは変わっていった。
行きの車の中。
助手席で、化粧を直すその仕草はまるで本物の「夜の世界の女」に見える。
派手なデザインの、露出の大きい下品な服。
「ミエコ、今日は2時に迎えに来るからな?」
「はぁい」
やけに甘ったるい“はぁい”は客に向けて発しているような媚びた声だった。
深夜2時。
店の近くで車を停めてミエコを待っているが、一向にミエコは現れない。
仕事を終えてから迎えに来ている身としては、この深夜帯は眠くて仕方ない。
2時間近く待ったが、とうとうミエコは現れなかった。
「あいつはなにやってんだ…!!」
この頃から、送っていったのはいいが、帰りになかなか姿を見せなくなった。
朝方1人で帰ってくるようになった。
最初こそ「お得意さまにチップをもらうためにお茶をしただけ」と訳のわからん言い訳を繰り返したが、とうとうこの団地に
ミエコは寄り付かなくなった。
メグミを置いて、どこかの男と遊びほうけるようになったのだ。
やはり血は争えないということか。
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