出逢い

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出逢い

「マリちゃん、姉ちゃん学校行ってくるからね、戸締まりちゃんとするんよ?」 「わかってるわよクミ姉ちゃん、子どもじゃないんだから」 「いーや、最近この辺も物騒よ。痴漢が出たって噂があるんよ」  同居しているクミ姉ちゃんはこれ以上ないくらい妹のわたしを心配する。 「マリちゃんは姉ちゃんと違って美人さんだから」  クミ姉ちゃんの視線が、まだパジャマのままのわたしの胸元に注がれる。 「マリちゃん、いくら家の中だからといえ・・」 「わかってるよ、クミ姉ちゃん!遅刻するから早く行って♪」  クミ姉ちゃんの背中を両手で押しながら「気をつけてね」ととびっきりのスマイルで送り出した。  …バタン。  ようやく静寂を取り戻した部屋で、「ふぅ…」と溜め息をひとつついた。それから乱れたパジャマを整える。    見知らぬ土地、宮崎。  お父さんがクミ姉ちゃんとわたしのために借りてくれているアパートは、女2人で住むには充分な広さだ。  お母さんが亡くなって3年経った。  お父さんには再婚相手がいる。  しかも相手は同僚だなんて。  初めてあの人と対面したときは驚きのあまり挨拶の言葉すら出てこなかった。 『この人が、義理の母親になるの……?』  思わず笑ってしまいそうになるくらい 醜い女だった。  こんな女のどこがいいの?  公務員って肩書きだけでお父さんはこの(ひと)を選んだの?  疑問だらけだったわたしはそれが顔に出てしまっていたのかしら。  その(ひと)に驚くほど冷たい視線で睨まれたわ。  案の定、その(ひと)はとことんわたしを毛嫌いした。  話しかけても無視、機嫌が悪くなると扉をバンッと激しく閉める。  わたしを庇ったクミ姉ちゃんもターゲットにされた。  何故か、三姉妹の中で一番母に似ても似つかない妹のミホだけが可愛がられた。  「もう同じ屋根の下で暮らすのは限界!!」 お父さんに泣いて訴えたかいがあって、このアパートで暮らせている。  お父さんはわたしとクミ姉ちゃんに愛情がないんだわ。  こんな不幸な境遇の姉妹は世界中どこを探したって居ない。 『マリはお母さんに顔がよく似ているからだよ。我慢してくれ』  なに、あの(ひと)死んだお母さんに嫉妬しているの?  それから、こんなに年齢(とし)が離れている娘のわたしにも? 「美しいって罪だわぁ…」  静かなこの街で、少しだけ時間(ひま)潰し。  そのつもりだった。  クミ姉ちゃんが大学に行ってしまえば、わたしはなんにもすることがない。  1人きりの時間。  せめて自分を綺麗に保つことだけは忘れない。 「ふー…」  紅いマニキュアに吐く息が、部屋の中に広がっていく。    ……この独特の匂いが頭にクラっとくる。  思い出したくない思い出がまた襲ってきそうで、気分転換に先週買ったばかりのワンピースに着替えることにした。  やっぱり赤のワンピースにして正解!  白い花柄を際立たせているのは、この深紅の生地だわぁ。  1人だけのファッションショーに心が踊る。  姿見の前でヒラヒラ舞うワンピースにうっとりしていたその時、「コンコン…」と誰かがアパートの部屋の扉を叩く音がした。 「はぁーい、どなた?」  
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