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消したい過去
クミ姉ちゃんが学校から帰ってきたら、早速恋人ができたことを報告した。
事のいきさつをウキウキと話すわたしに対して、クミ姉ちゃんは浮かない面持ちで「あのこと」を口にした。
「マリちゃん、あなた父さんが決めた婚約者がいるでしょう?それなのにマリちゃんは・・」
「安心して、婚約者とは今日別れたから」
今日出逢ったヨシトさんに
『もし今貴女に付き合っている男性が居るなら綺麗さっぱり別れてほしい。付き合ってから揉めるのが何より嫌なんだ』
真面目にそうお願いされたから、お父さんが決めた男は今日電話で別れを告げた。
なんて誠実な男性なのかしら。
クミ姉ちゃんは「マリちゃんらしいわ」と半ば呆れ気味にクスクスと笑ってる。
そうよ。もうあんな男いらない。
ヨシトさんのようなハンサムで大人な男じゃないと、わたしには釣り合わないもの。
ハンサムで、真面目で、頭が良くて、大人で。
そうよ。あれも恋なんかじゃなかった。
1年前、高校の先輩とふたりで熊本から東京へ駆け落ちした。
野球部の彼がとても眩しく見えた。
初めて体を許した相手でもある先輩と熱い恋愛に燃えて、一生ふたりで生きていきたいと本気で願った。
だけど高校生である私たちがこんな田舎町でふたりきりで生きていけるわけない。
「東京へ逃げよう」
先輩に言われるまま、親も家族も学校も何もかも捨てて、東京行きのフェリーに乗った。
怖いものなんて何もなかった。
東京に行けば街の雑踏に紛れ、ふたり手を取り合って生きていけると思っていた。
そんなのただの幻想だと気付いた時には泣きながらひとり熊本に帰ってきてた。
わたしが駆け落ちしたことでお父さんは心労で倒れてしまった。
あの時はさすがに申し訳ないと思ったけれど。
あんな男だから、ダメになった。
ヨシトさんとは上手くいきそうな気がするの。
根拠のない自信は一体どこからくるのかしら。
会いたい。
気づけばずっと彼のことで頭がいっぱいになってる。
恋愛は強欲なくらいがいい。
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