愛しあう日々

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愛しあう日々

 出逢ったあの日から、彼は毎日会いに来てくれた。  仕事を終えてから、近くのご飯屋さんで一緒に夕食を食べる。  ふたり見つめあって食後の珈琲を楽しむ。  彼がスマートに会計を済ませたら彼の車に乗り込みまたふたりで会話する。  彼はおとなしい男性(ひと)だけど、わたしを楽しませるために冗談ばかり言ってわたしを笑わせてくれた。  寡黙な男性(ひと)が自分の前では隙を見せてくれる。それが女にとってどれだけ嬉しいことか。 「マリ…」    急に真顔になった彼から名前を呼ばれる。  そしてふいに、唇を奪われる。  彼は強く、強く唇を求めてくるからそれにわたしも精一杯それに応える。  でも… 「…ヨシちゃん、待って」  彼の手が私のスカートを撫でてきた。  右手でストップをかける。 「マリ、どうして?」  言えない。思い出した、だなんて。  東京へ逃げようと誘った先輩と彼が一瞬だけ重なって見えた。  また、裏切られたら、なんて。  らしくもないことを考えてしまい、躊躇したわたしの様子を彼が見過ごさなかった。 「なにか抱えていることでもあるのか?」  ―――彼はわたしより9つも歳上だから人生経験も豊富なはず。  わたしは、家族も友達も学校もすべて捨ててひとりの男と東京へ駆け落ちしたことを打ち明けた。  彼は黙って話を聞いてくれたあと 「誰にでもそういう過去はあると思うよ」と そっとわたしを抱き寄せてくれた。  あぁ…!やっぱり大人の男性(ひと)だわ。  決めた。必ずこの人と結婚してみせる。  この人に相応しいのは、母から譲り受けたこの美貌を持つわたししかいない。    クミ姉ちゃんが学校へ行っている間に、彼は仕事中でもアパートまで来てくれるようになった。  昼間のアパートの布団の中で、何度も何度も彼と愛し合った。  きっと永遠に愛し合えるはず  当然のようにこの幸せはこれから先もずっと続いていくと信じて疑わなかった、19歳のわたし。  美人で若くて愛嬌のあるわたしは  この人に永遠に愛され続けるという絶対的な自信があったから。  そして、この人にはわたししかいない。  そう確信したから。    熱く、熱く燃え上がる初めての恋だから。
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