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紅い薔薇の意味は
クミ姉ちゃんが学校へ行ったあと、三面鏡へ向かう。
ガサゴソと化粧品のポーチから今日のルージュの色を決める。
「今日はどんなイメージにしようかしら」
鏡の中の自分は、我ながら綺麗だわ。
クミ姉ちゃんは「マリちゃんにはお化粧は必要ないわ」なんて言うけど、やっぱり女に生まれたからには飾らなきゃ勿体ないわ。
一通りお化粧が済んで、時計を見たらもうとっくに約束の時間を過ぎている。
……ヨシちゃん、遅いんだから。
今日は特別な日なのに。まさか忘れちゃったんじゃないわよね?
彼とわたしの布団のシーツを綺麗に整えた。
ヨシちゃんとお付き合いするようになってから、1人でいると部屋の時計の音がやけに大きく感じるようになったわ。
カチカチカチカチカチカチ…………
時計の針の音がだんだん子守唄に聞こえてきた。
「トントン」
…ん?扉を叩く音に反応してハッと目を覚ます。
「トントン」
いつの間にか寝てしまっていた。
しかもお化粧だけして、お洋服に着替えないでパジャマのままだ。
彼が来てしまった。
「ヨシちゃーん、ちょっと待っててねぇ?」
慌ててお洋服を選んで、着替えを済ませる。
「お待たせ。…あら?」
急いで玄関の鍵を開けると、そこには誰もいなかった。
「え…?ヨシちゃん?」
どうして?怒って帰っちゃった?
ここはアパートの1階だからか、キョロキョロと辺りを見回したけれど、もう誰の気配もなかった。
何がなんだか事態が飲み込めずに呆然としてしまったが、ふと足元に何か置いてあると気付いた。
扉に真っ赤な薔薇の花束が立て掛けてある。
溢れんばかりの、真っ赤な薔薇の花が。
「ヨシちゃん………」
彼のサプライズだったのだろう。
花束の中心にあるカードをスッと抜き取る。
「マリ、20歳の誕生日おめでとう…ヨシト…」
もしかして寝ているわたしが起きるまでずっと玄関の扉を叩いていてくれたの…?
薔薇の花束は、数えなくても100本はあるとわかるくらいわたしの腕の中にはおさまりきれないくらい豪華だ。
『マリは赤い薔薇のように綺麗だよ』
いつか彼がわたしをそう例えたことを思い出した。
わたしが一番好きな花は、赤い薔薇。
赤い薔薇の花言葉は『あなたを愛しています』―――
「愛情」「美」「情熱」……
ロマンチックな彼がとてつもなく好き。
嬉し涙を流した記念すべきわたしの20回目の誕生日。
お母さんが亡くなってから初めて嬉し涙を流した、20回目の誕生日だった。
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