③ 小3の想い出

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③ 小3の想い出

 僕たちが小3になった頃、エミリーの両親は離婚した。  理由が何なのかは知らない。僕の母は知っていたようなのだが、訊いても話してはくれなかった。  さて、このことがあって、エミリーは母親と二人で社宅を出ることになった。家族持ちの社員を対象にした住宅だったので、彼女の父親もいなくなった。   エミリーの母親は、社宅からほど近いアパートの一室を借り、そこでエミリーと共に新しい生活を始めた。  校区は変わらなかったし、名字も変わらなかったので、彼女の学校生活に大きな変化はなかった。  今思えば、名字を変えなかったのは、母親の娘に対する気遣いからだったに違いない。  エミリーの母親は、自宅で“お絵描き教室”なるものを開いて生計を立てることにした。なんでも美大を出た学歴があるそうで、その経験を生かしたいと考えたようだ。  なぜか僕も、母さんから半ば強制的にその教室に週に一度のペースで通わされることになった。毎週水曜日の夕方4時からの一時間半。僕にとっての初めての習い事だった。  その教室で、毎週色々なことをした。エミリーもレッスンには加わるのが常だった。  基本的には絵を描くわけだが、時には紙粘土を使ってのレッスンもあった。  今でも記憶に残っているのは、その紙粘土を使ったレッスンの日のことだ。  先生から、つまりエミリーの母親から「自由に何でも作って良い」と言われて、僕は何を思ったか、クマのオブジェを作ることにした。  イメージしたのは、北海道の土産物のようなリアルな熊ではなく、メルヘンなクマさんだ。短い手足を投げ出して座る頭でっかちの作品が出来上がった。  だが、完成させてみて失敗したことに気づく。  胴体や手足は立体的なのに、頭部だけ平べったい二次元的な形になっていたのである。  つまり、正面や背後からだと、まあ見られるのだが、真横からその姿を見ると頭だけがペッタンコなのである。
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