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それから男は女と暮らし続けた。
泥棒稼業は全く上手くいかなくなったが、男の心は幸せに満ちていた。
そして、盗みで稼げなくても、相変わらず真っ当な仕事に就くという選択肢は男に芽生えなかったのである。
「おや、痩せた?」
ある日、町中で久しぶりに会った泥棒仲間に、男はそう声をかけられた。
「なんか最近稼げなくてな。不景気のせいかねぇ」
「金はあるとこにはあるぞ」
仲間が札束をひらつかせ見せつけてくる。
「よかったな」
と、男は羨ましがらない。
「お、おい。この札束が欲しくならないのかい?」
「ならないね。心が満たされているからかな」
「おいおい、どうしたんだい。なにかあったのかね?」
心配してくる仲間に、男は女が現れてからのことを話した。
「……それは、貧乏神じゃないのかい?」
「貧乏神?」
「きっと、罰が当たったんじゃないのかね。
神さんのものに手を着けたから。
わしはそんなことせんからな」
どや顔で男の仲間はそう宣いましたが……、そもそも窃盗は違法であり、人としてやってはいけません。
………………
「あなたは、貧乏神なんですか」
男は部屋に帰るなり、女に疑問をぶつけてみた。
「はいそうです……」
女は躊躇うことなく正体を教えるも、ざらついた畳に額を擦りつけて泣き出す。
「ごめんなさい、ごめんなさい。ご迷惑をおかけしてごめんなさい」
「俺はあなたを責めません。今まで味わったことがないほど満ち足りている。
だから、これからも一緒にいてくれませんか」
男は貧乏神である女を抱きしめ、貧乏神は男の腕の中でただ声を震わせて泣くのだった。
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