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私はなんて酷い神なのでしょう。
取り付いた人を貧乏にしてしまうなんて。
しかも、取り付かれた者は私に母親のような愛を感じ、離れられなくなってしまうのです。
今回の男もそう。
私のせいで日々の食事もままならなくなっているというのに……。
申し訳ない気持ちで一杯になる。
だから私は、精一杯母親を演じ、泣いて謝ることしかできないのです。ごめんなさい、ごめんなさい……。
………………
しばらくして、男はどんどん痩せていった。
それは食べ物を買えないからではなく、食べられない体となってしまっていたからだ。
病であることを男は分かっていても、病院や薬に払う金もない。無法者である身では、行政に頼ることもできない。
目立つ犯罪でもして捕まれば、檻の中でそれなりに快適な暮らしができたかもしれないが、女といたい気持ちがそうさせなかった。
死を待つしかないのであった。
「ごめんなさい」と女が謝り、「天罰だから仕方ない。俺はあなたがいて幸せだ」と男が力なく笑う日々が続き、やがて……。
「おふくろ……」
最期に男の目に映ったのは母の姿。温かい母の腕に抱かれ、安心して眠りについた。
永遠の眠りに、幸せなやすらかな顔で。
笑顔の男を看取った貧乏神は、母のようなやすらぎを与えられたことに満足して笑顔になる。
「あんたはホント優しいよね」
鎌を担いだ、烏のような青年があきれながら声をかける。
「私のせいで貧乏になってしまう上に、勝手に母だと慕い可哀想でしょう。
だから、母親として尽くす仕事もするしかないのです」
貧乏神は悲しそうにほほ笑んで、部屋を出ていく。
新たな棲みかへ、自身の暗い心と共鳴する荒んだ所へと。
男の魂が、肉体を失っても尚、貧乏神を慕い付いて行こうとする……。
「僕はただ命じられた仕事をするだけさね」
死神である青年は、貧乏神と離れるのを拒む魂をむんずと掴み、閻魔様の下へと急ぐのであった。
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